『ちむどんどん』金曜日には「めでたしめでたし」となる“本当は恐ろしい童話”(第19週)
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童話やおとぎ話では「同じできごとを3回繰り返す」ことがよくある気がします。たとえば『3匹のこぶた』ならこぶたたちの3つの家を狼が狙う。『3匹のやぎのがらがらどん』なら3匹のやぎが、トロールが待ち構える橋を次々渡ろうとする。
第19週の『ちむどんどん』はそんな童話のように「我那覇(田久保宗稔)の持ちかけたうまい話に賢秀(竜星涼)が乗る」繰り返しの3回目でした。1回目はドルと円の交換詐欺、2回目は紅茶豆腐、そして今回のジャイアントビタミンスリーセブン。いわば我那覇三部作。でもこの三部作には、末っ子ぶたが知恵で狼に勝つ結末も、大きなやぎがトロールをやっつける結末もなく、3回目もいつも通り悪い人にお金を盗られておしまい。「良子(川口春奈)たちからの援助を受けて、暢子は予定通り開業に向けて準備を進めることができました」と、めでたしめでたしと言いたげなカビラさんのナレーションが入りましたが、これ、幸せな結末なのは無事に店を持てる暢子(黒島結菜)と逮捕されなかった賢秀だけですよね。母・優子(仲間由紀恵)が支払った金も良子たちの貯金も、悪人たちの懐を温めて終わる。童話と違って全然すっきりしないんですけど、なんのために3回繰り返したんでしょう。
前回のコラムでは、この朝ドラは重子や智から見たらホラードラマだと書きましたが、良子の娘・晴海(鈴木咲)から見ると今週は「本当は恐ろしい童話」みたいなもの。節約にはげむ良子に「高かったんだから野菜を残さず食べなさい!」と叱られ、そこまでして貯めていたお金がなくなったから楽しみにしていた海外旅行に行けないなんて、これはあまりにかわいそうでは。
それにしても、よく差し込まれる「実は子どもの頃、賢秀にはこんなことがあったんですよ」エピソード、激しく逆効果な気がするんですけど大丈夫でしょうか。賢秀は「家族を楽にさせたいあまりに悪い人にだまされてしまう、愚かだけど根は優しい男」かと思いきや、今回の「共同売店で他の子が品物を万引きする中、1人だけレジの金を盗み、父・賢三(大森南朋)はお前は悪くないと抱きしめた」という話により「親からきちんと叱られなかったために善悪がわからないまま成長した、金に執着する男」という、とんでもない危険人物へと脳内で変換されてしまいました。
「家族だのに関係ある!」「お前が悪いとしたらそれは父ちゃんのせいヤサ」「賢秀、長男として家族を頼む」という父の残した愛と呪いの言葉により、賢秀が給料の前借りをしたまま勤め先から逃げても、今回のように騙されても、「ニーニーは悪くない」と、家族が彼の借金を返し続けるのが当たり前となる。賢秀は家族に「倍にして返す!」と、できもしない約束をしては悪事に首を突っ込み、その後始末を家族がするループが止まらない。
「関係ないなんて言うな」というセリフが何度も出てきたので、この週は「人との関係」がテーマのひとつだったようですが、たとえ家族であったとしても「これについては私は関係ない。もうこれ以上私はお金は出さないし、倍にして返すのもいらない」ときっぱり線を引くことも愛だと思うんですが。でも、他人との境界線を破壊し続けて「同じ世界に生きている!」と叫ぶ境界線ブレイカー暢子に言っても、絶対わかってもらえないでしょうね。
朝食を用意したことを夫に感謝されて「そんな言わないで、簡単なものだのに」と返す暢子にちょっとカチンと来たんですが、たぶん彼女は朝早くから目がシャキッと冴えて、手早くおかずを何品も作れて、出勤のための身支度もテキパキとでき、その後の鶴見から銀座までの通勤も苦ではない魔法の力があった、そういう童話だと思うことにします。二人分の食器と使った鍋類はすべて小人が代わりに洗って片付けてくれるんでしょう。
おいしそうなイタリア料理を作っていた記憶があまりないまま独り立ちする暢子と、いつも田良島(山中崇)たちの力で取材できていたように見えるのにフリーランスになってしまう和彦(宮沢氷魚)。従業員の住み込み部屋があるくらいの大きな店で、予定より家賃も高くなって、いったいどうする気だと思うけれど、海の底に沈められていた矢作(井之脇海)が魔法の力で引き上げられて店で働くことになり、金曜日にはめでたしめでたしのナレーションが聞こえることでしょう……うん、童話設定にすると便利ですね。
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NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス
出演:黒島結菜、仲間由紀恵、大森南朋、竜星涼、川口春奈、上白石萌歌ほか
作:羽原大介
音楽:岡部啓一、高田龍一、帆足圭吾
主題歌:三浦大知「燦燦」
語り:ジョン・カビラ
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:高橋優香子、松田恭典
広報プロデューサー:川口俊介、鈴木 葵
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/chimudondon
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