「松本人志スベってる」のルーツは…笑いを規定した“松本言葉”の影響力
#テレビ日記
松本人志「俺の感覚では『グズグズ』より『グダグダ』のほうがもっとグズグズな感じがする」
言葉といえば、松本人志(ダウンタウン)が少し前に自身の漫才の作り方に関してこんなことを語っていた。
「わりとこう、日本語遊び、日本語が面白いなっていうところから、俺の根本は来てると思うよ」(『笑いの正体』NHK総合、2022年3月21日)
松本の言葉へのこだわりはよく知られているところだ。かつて披露していた漫才だけでなく、今でも番組のトークのなかで“日本語遊び”のような発言は繰り返し見られる。Twitterでも「【お湯を沸かす】っておかしいよね? 【水を沸かす】よね? もしくは【お湯に沸かす】とか?」(2021年3月16日)みたいなことを言っていたりする。
そんな松本が使ってきた言葉には、他の芸人たちも使うようになった言葉、さらには世間で一般的になった言葉も多い。たとば「スベる」「サムい」「噛む」「ダメ出し」「空気を読む」などは松本から発信された言葉として知られる。「この言葉も松本が広めた言葉だった」みたいな話は、それこそネット上でたくさん流通している。
そんな松本がルーツになった言葉について、13日の『ダウンタウン vs Z世代 ヤバイ昭和あり?なし?』(日本テレビ系)のなかで取り上げられていた。三村マサカズ(さまぁ~ず)は証言する。
「(スベるという言葉は)もともと関東では使ってなかったと思うんですよね。『今日ネタはずしちゃったな』とか、『お前ネタはずしてたよね』って関東の人は言ってたと思うんですよ」
あるいは「グダグダ」という言葉。松本は自身で次のように語る。
「『グダグダ』なんかは、たぶん普通『グズグズ』って言ってたのよ。でもなんか、俺の感覚では『グズグズ』より『グダグダ』のほうがもっとグズグズな感じがする」
松本は、あたかも自分が新しい言葉を発明したかのようにも聞こえる取り上げ方に、「ない言葉じゃなくて、あったんでしょうけどあんまりそんなふうに使わなかった言葉」だといったように、謙遜気味に語っていた。
ただ、そんな謙遜とは裏腹に、特に芸人を中心としたバラエティ番組では、松本発信の言葉が使われないものはほぼないと言ってもいいだろう。それは単なる言葉の使用に留まらない。たとえば「スベる」という言葉の広がりは、その言葉を使う人が増えるだけでなく、「スベる」という状況が笑いどころのひとつだという理解の一般化を意味する。流行語として一過性で消費される言葉ではなく、日常語として浸透してきた言葉。それだけに、松本ルーツとされる言葉は「何が面白いのか」を深く規定してきたとも言える。
松本は自身が関わる番組で、他の芸人たちが活躍する舞台を整えてきた。たとえば、ネタについては『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)や『キングオブコント』(TBS系)、トークについては『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)、大喜利については『IPPONグランプリ』(同前)がそうだ。そういう番組で松本は審査員や主催者のような位置に座り、直接的・間接的に他の芸人を評価してきた。芸人の笑いを技術化・競技化する流れのなかで、その評価基準の一端を作ってきたと言えるかもしれない。その影響力は小さいものではないだろう。
ただ、松本の影響はさらに深いのだろう。それは言葉の次元に及んでいる。ネット上ではどういう活動をしてもGoogleが提供するサービスから完全に逃れることが難しいように、お笑いをやろうとするとそこには松本の影がある。松本人志というポータルサイト。松本ルーツの言葉が世間のコミュニケーションのなかに少なからず浸透していることをふまえれば、その影響は芸人界隈に限られないだろう。「松本はスベってる」みたいな批判すら、松本の影響下にあるのだ。
――みたいな解釈も、あまりストレートに受け取られすぎると困るのだが。
※「テレビ日記」過去の回
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