「松本人志スベってる」のルーツは…笑いを規定した“松本言葉”の影響力
#テレビ日記
テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(8月7~13日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。
大悟「上を向いて歩こう 上を向いて歩く人に出会えるから」
芸人がテレビでネタをマジメに語ったり、感動エピソードを披露したりするのは、もはや当たり前の光景である。かつてであれば「なに語っちゃってんの?」となる場面でも、そんなツッコミは入らなかったりする。もはや無粋なツッコミとして忌避される傾向があるような気もする。
一方で、世間の側も芸人のそんな話を待っていたりする。ネット上では定期的に「あの芸人にはこんな感動エピソードが」と話題になる。一時期は、江頭2:50の“名言”がよく出回っていた。
そういう感動エピソードや名言のなかには、もちろん本当のものもあるだろうが、でっち上げのものもあるのだろう。それっぽいことはあったけど誇張されている、みたいなのも多いかもしれない。が、そのあたりの真偽はあまり問われることなく、インスタントな感動を提供してくれる言葉・エピソードとして繰り返し流通する。
11日の『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)で放送された企画は、そんな状況へのツッコミのようにも見えた。その名も「心に響く言葉選手権」。芸人たちが自作の“名言”を発表し合う内容だ。集まったのは千鳥の2人のほかに、小沢一敬(スピードワゴン)、秋山竜次(ロバート)、中岡創一(ロッチ)、平井まさあき(男性ブランコ)といった面々だ。見届人として又吉直樹(ピース)も出演していた。
企画は、芸人によるいかにもそれっぽい“名言”の披露と、又吉による“解釈”で進んでいく。たとえば、大悟(千鳥)のこんな言葉を発表していた。
「上を向いて歩こう 上を向いて歩く人に出会えるから」
絶妙に名言っぽい言葉である。坂本九の名曲『上を向いて歩こう』を想起させるが、自己啓発っぽいポジティブさをまぶしている点で、現代的な変調と言えるかもしれない。これに又吉が解釈を加える。
「(『上を向いて歩こう』の)『涙がこぼれないように』をみんな1回想像するんですけど、その先を描いてるというか。あれはそのあと『一人ぽっちの夜』って続くじゃないですか。『上を向いて歩こう』のあとに『一人ぽっちの夜』、耐えるだけの夜から、もうすでに人との出会いとか、次のことに転じてるっていう」
又吉の解釈を聞きながら、我が意を得たり、という表情で大悟はうなずいた。
その後も、芸人の名言っぽい言葉に又吉が解釈を加え、さらに名言っぽさを引き立てていく。あるいは、名言とは言えないような言葉も、又吉が新たな光を当てることによって名言として輝き始める。そんな名言ロンダリングのような状況に芸人たちが乗っかっていく様子、もっといいこと言いたい欲、もっといい解釈をしたい欲が刺激されたように振る舞う様子が面白かった。
それはまるで、思わず感動的なことを言いたくなってしまう自分たちのパロディ、自分たちへのツッコミ。いや、それ以上に、芸人たちの言葉に感動を求める世間のパロディ、言葉を流通させるなかで感動度を洗練させていきさえする世間へのツッコミだったのかもしれない。
――みたいな解釈も、あまりストレートに受け取られすぎると困るのだが。
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