理不尽でサイテーな日常を笑いに変える映画『野球部に花束を』の魅力
#映画 #ヒナタカ
8月11日よりクロマツテツロウの同名マンガを原作とした映画『野球部に花束を』が公開されている。
本作の触れ込みには「時代錯誤」や「《時代逆行型野球》野球“部”エンタメ」などがあり、予告編では「いかにも」な体育会系の部活の風潮を面白おかしく描いているような印象も持つ。それらから「パワハラ礼賛な内容だったらイヤだなあ」と観る前に勝手に思っていたが、本編はそんなことはなかった。
さすがは『ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち』(そちらの脚本家は別の方だが)の飯塚健監督、真っ当なモラルのもとで作られた青春コメディ映画として、万人におすすめできる快作となっていた。さらなる魅力を紹介していこう。なお、エンドロールの最後にもおまけがあるので、これから観る方は最後まで席に座っていてほしい。
理不尽な「野球部あるある」を笑い飛ばす
物語は、高校に進学した主人公の少年が茶髪へイメチェンしたことから始まる。爽やかな青春を謳歌するはずだった彼は、野球部の2年生たちの甘い勧誘に乗ってグラウンドに顔を出してしまったがために、流されるまま中学の頃と変わらず野球部に入部した上、せっかく染めた髪も丸坊主にされててしまうのだった…。
本作の主なコメディ要素は、そんな「理不尽」を前提とした「野球部あるある」だ。例えば、入部前は優しく野球部を薦めてくれていた先輩が、グラウンドで再会すると別人のように罵声を浴びせてくるため、こうナレーションで解説される。「お客様扱いから、構成員に切り替わる瞬間だ」と。
その「あるある」の例え方が絶妙なので笑ってしまうし、野球部出身でなくとも「ウソのように理不尽だけど本当なんだろうな」と思える。もちろん原作者のクロマツテツロウも野球部出身であり、その野球部あるあるが実体験に基づいているのは間違いない。なぜか「ファミコン」テイストのBGMと共に、それらがコミカルに提示されるのも良いアクセントになっていた。
それらの理不尽さに主人公がモノローグでツッコミを入れたり、仲間同士で愚痴り合う場面もあって、作り手が野球部あるあるを「ひどくて」「間違っているもの」と捉えていることは種々の描写から伝わる。「嘘のようでリアル」な体育会系部活の極端さを、悲しいと同時にブラックな笑いに昇華した作品なのだ。
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