成田凌と前田敦子による異世界不倫物語『コンビニエンス・ストーリー』の魅力
#前田敦子 #成田凌 #ヒナタカ
『大怪獣のあとしまつ』との比較でプラスに働いたとわかること
思えば、『大怪獣のあとしまつ』の問題は、「怪獣の死体をどう処理するか」という科学的な考証や政治上の軋轢などの「リアルさ」が期待されるメインのプロットと、三木聡監督印のシュールな笑いや「え? 何この状況?」となる不条理劇と全く、噛み合っていないことだった。その上、繰り出されるギャグのほぼ全てが短絡的かつ不快で、しかも本筋といくらなんでも関係がなさすぎると、監督の作家性が見事にマイナス方向に働いてしまっていたのだ。
だが、今回の『コンビニエンス・ストーリー』では、「山奥の霧の中になぜかコンビニがある」「その中に妖艶な人妻がいて不倫関係に」「その夫から敵意を感じるし何なら殺されるかも知れない」とう不条理サスペンスが中心に据えられているので、主人公が状況に困惑する様がそのまま物語と密接に絡んでいる。
しかも、『コンビニエンス・ストーリー』での「何言ってんだこいつ?」と思いたくなるギャグ的な言動は、笑いよりもその不条理な状況でこその意味不明さのほうが打ち勝つため、ホラーとして怖くなる。「笑いと恐怖は紙一重」と言うが、今回は三木聡監督のシュールな笑いという作家性が「不条理ホラー」へも転換して、完全にプラスとなっていたのだ。そのギャグのほとんどは物語と関係ないものの、数自体は多くない。その中ではコンビニオーナーの「趣味」は訳がわからなすぎてマジで怖いし、とある「名前」に関するギャグが「あるポイント」で伏線回収されるのは悔しいけど笑ってしまった。
思えば、今回の『コンビニエンス・ストーリー』の中心にある「不倫」「三角関係」という要素は『大怪獣のあとしまつ』にもあった。酷評ポイントがいくらでも思い浮かぶ同作において、その三角関係そのものは興味を引くものであったので、三木聡監督は今回もその面白さを打ち出そうと画策していたのかもしれない。
普遍的な人生訓が込められている?
本作の企画および原型となる物語を考案したのは、映画評論家のマーク・シリング。彼によると、もともとのアイデアは「東日本大震災が起きた時に、東京のあちこちのスーパーの棚が空っぽになった中で、コンビニが砂漠の中のオアシスみたいな存在になったこと」から発展し、「世の中がコンビニ一軒になってしまえば、その中だけで生活できるのではないか?」と考えたことがきっかけになっているのだそうだ。また、ダンテの『神曲』も参考にしており、劇中の異世界は天国でも地獄でもない「煉獄」をイメージしているという。
「煉獄にある何でも揃うコンビニ」という舞台は象徴的だ。売れない脚本家の主人公はそこに迷い込んで、脚本の執筆作業は今までにないほどにはかどり、外界との連絡も取れるし、何よりコンビニには食糧も水も何でもあるので「ここだけで生きていける」状況になっている。あまつさえ、エロティックな人妻からは性的なアピールもされて(彼自身にも彼女がいるので)W不倫の関係にもなる。それ自体は特殊中の特殊であるし許されないものだが、実は「思いがけない」状況で「人生の選択」に迫られるということ自体は、普遍的なことなのではないか。
事実、劇中には「人生の重要なきっかけは咄嗟にやってくる。そんな重い足取りでやってくることってそんなにないですよね」や「人生あまり、期待しない方がいいですよ」といった人生への哲学的な言及がある。脚本の執筆作業に悩む主人公の姿は、そのまま三木聡監督に重なって見えるので、作り手の思想がストレートに表れている作品と言える。
そして、クライマックスからラストは、観る人によって解釈が分かれる、これぞ不条理劇であり三木聡イズム!という着地になっている。安易な結末に落とし込まない結末からも、「人生ってままならないな」といった、やはり普遍的な人生訓を思い知らされるだろう。
『コンビニエンス・ストーリー』
出演:成田凌、前田敦子、六角精児、片山友希、岩松了、渋川清彦、ふせえり、松浦祐也、BIGZAM、藤間爽子、小田ゆりえ、影山徹、シャララジマ
監督・脚本:三木聡
企画:マーク・シリング
c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会
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