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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 出川哲朗の“能動”と“受動”

笑わせているのか、笑われているのか? 出川哲朗のリアルガチな“能動”と“受動”

出川哲朗「俺もプロフェッショナルになりたーい!」

 かつては「抱かれたくない男」など不人気芸人の代表的な存在でもあった出川哲朗。実際には不人気といいながらもずっとテレビには出演し続けていたわけで、そういう意味では“不人気という人気”を維持してきたタレントなわけだが、いずれにせよ、今では人気芸人と呼ばれることが当たり前の存在になった。不人気芸人から人気芸人へ、世間の見方の変化に翻弄される姿も、“リアクション芸”の一環だという気もする。

 そして今回の『プロフェッショナル』(NHK)出演である。これまで同番組に取り上げられた芸人は、萩本欽一、志村けん、柳家小三治、松本人志(ダウンタウン)、サンドウィッチマン、小籔千豊など。いずれも漫才やコント、落語や新喜劇といった形で見る者を“笑わせる”ことを考え抜いてきたプロたちと言えるかもしれない。そのような並びのなかに、時に“笑われる”存在と見られかねない出川の名前が入ってきた格好だ。

 そんな出川は、自身が大切にしているスタンスは「ノーガード」だと言う。

「すべてを受け入れる体勢にはしてるつもりですね。もう、ノーガードで打ってきてくださいっていうほうかな。面白さも結局、全部引き出してもらってるんですよね。じゃあそれがプロフェッショナルなのか?って言われちゃったら、プロフェッショナルじゃないんですよね。自分じゃないから。引き出してもらってるから」

 また、出川用語のひとつである「リアルガチ」。彼いわく、リアルガチとは「リアルの最上級」を意味する。そしてリアルガチな場とは、笑いが起こる場でもある。

「たとえば熱湯風呂とかも、僕は本当に熱いほうがいいんですよ、これ変な意味じゃなくて、僕もそこまで熱くなくてもリアクションはできるんですよ。でも、僕はそれ以上に、リアルにもっと熱いほうがいいんですよ。こっちのやろうとしてるリアクション以上のたまにハプニングが起きて、それがドカンってなることがあるから、僕はリアルガチのほうが好きなんですよ」

 出川は、自身の面白さは周囲の共演者やスタッフに引き出されたものだと語る。また、ハプニングを呼び込むような状況に自分をあえて置くことで理想のリアクションができると語るが、そんなリアクションもまた、自身が意図しないもの、自分の外側の何かに引き出されるものだと言えるだろう。そして、そんな自分の外側の“何か”のことを“笑いの神”と呼ぶのだろう。

 自身を意識的に「ノーガード」にすることで、共演者やスタッフに面白さを引き出される。自身を自覚的に「リアルガチ」な状況に置くことで、“笑いの神”に面白さを引き出される。能動性と受動性が渾然としたところで、笑いが生まれる。

 笑わせているのか、笑われているのか。そんな問いが意味をなさないようなところに出川はいるのだろう。彼は常に笑いの渦の中心にいる。それは彼が巻き起こしたものかもしれないし、彼は巻き込まれているのかもしれない。巻き起こしつつ、巻き込まれているのかもしれない。

 番組の最後、出川は番組おなじみの「プロフェッショナルとは?」という問いに答えていた。それも、番組側の“ドッキリ”としてジェットコースターに乗せられながら。急降下するコースター。「プロフェッショナルとは…えー、プ…」と言いかけて、急カーブで言葉が出なくなる。なんとか彼が絞り出した言葉が「ブレないこと」だ。

「ブレないこと。ブレないこと。ブレないで自分……ブレないで自分……ブレないで自分の好きなことをやりつづけること。それを仕事としてやってる人は、みんなプロフェッショナルなんじゃないか……。俺もプロフェッショナルになりたーい! 俺も……俺もプロフェッショナルになりたい!」

 ジェットコースターのスピードに何度も言葉が出てこなくなりながら、それこそ顔も定点カメラもブレながら「ブレないこと」を連呼する出川。そして、そんなコースターの急旋回に身体のコントロールを奪われながらも、コースターがうまく終着点につくようなタイミングで「俺もプロフェッショナルになりたーい!」と絶叫する出川。

 笑いの渦の中心で、時にその渦を巻き起こしつつ巻き込まれている彼の面白さを、なんだか象徴するシーンのように見えた。

※「テレビ日記」過去の記事

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2023/02/27 19:04
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