アルパカが地球を救う―新型コロナ抗体研究の中で新実験
#鷲尾香一
愛くるしい容姿で子どもたちにも人気のアルパカ。そのアルパカが世界を救うかもしれない。新型コロナウイルスのオミクロン変異株BA.5が猛威を振るい、感染者数は連日、過去最高を更新している。そんな中、京都大学などの研究グループは7月14日、免疫したアルパカ遺伝子からオミクロン株を含む全ての変異株に対して、これまで使用されてきたどの治療用抗体製剤よりも中和活性が高い、ナノボディ抗体を作り出したと発表した。
京都大学、大阪大学、COGNANO(コグナノ)社らの研究グループと横浜市立大学、東京大学の研究グループとの共同研究が、アルパカの遺伝子を使い、COGNANO社が世界で初めて開発した稀少な有用抗体を計算科学で探索する方法を用い、新たなナノボディ抗体を作り出した。
発表によると、「オミクロン株」は、スパイク蛋白の変異箇所が圧倒的に多く、以前感染した人やワクチン接種者にも感染する。また、オミクロン株による新型コロナは、出現前に開発された治療用抗体のほとんどが効かなくなることが明らかになっている。
新型コロナワクチンで誘導されるウイルスや細菌の感染から身を守る中和抗体や、これまでに開発された治療用抗体は、新型コロナ上のスパイクタンパク質の表面に結合して感染を抑えるものが多い。
だが、新型コロナウイルスの抗体が結合する場所であるエピトープのあるスパイクタンパク質の深い溝には、ヒトの抗体は大きすぎて入り込むことができない。また、エピトープが変異したウイルスは、抗体による免疫系を逃れることができる。
そこで新型コロナのエピトープに入り込めるナノボディ抗体の研究が進められた。ナノボディ抗体とは、アルパカなどラクダ科の動物とサメ科の動物が持つ重鎖のみからなる特殊な抗体で、ヒトや他の動物の抗体よりもはるかに小さい分子。
研究で創られたアルパカ抗体はヒト抗体の10分の1の大きさ。そのため、ヒト抗体が到達できない新型コロナのスパイクタンパク質の深い溝にあるエピトープに入り込むことができる。さらに、このナノボディ抗体は新型コロナウイルスへの結合力が極めて強い。
その上、ナノボディ抗体は、水質の温度・湿度・酸性アルカリ性・有機物・金属含有量などに対して、活性を保てる範囲が通常の抗体よりも広いため、下水などの環境中のウイルスを濃縮し、検出する用途にも応用することができる。
何よりも、ナノボディ抗体は遺伝子工学による改変がしやすく、ヒト抗体よりも数千倍安価に生産できる。
研究グループでは、「今回の研究で得られた知見に基づき、より中和活性の高い改変ナノボディ抗体を作成し、臨床応用を目指す」としている。
さらに、現在、京都大学、大阪大学、COGNANO社では、「新型コロナのみならず、エイズウイルス、ネコエイズウイルス、サル痘、その他、がん免疫を明らかにするため、さまざまな感染症について、ウイルス学的な解析や中和抗体やナノボディ抗体の構造解析についての研究に取り組んでいる」という。
今回の研究結果は、7月6日に英国科学雑誌「Communications Biology」にオンライン掲載された。
新型コロナウイルスはワクチン、治療薬の開発とウイルスの変異が繰り返され、いつ終わるともわからない状況だ。今回開発されたナノボディ抗体が実用化され、新型コロナウイルスの感染拡大が終息に向かうことを切に願う。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事