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大阪万博「ミャクミャク」を元サンリオデザイナーが解説「こいつ、悪いやつじゃないな」

大阪万博「ミャクミャク」を元サンリオデザイナーが解説「こいつ、悪いやつじゃないな」の画像1
「共同通信PRWire」より

 大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」が大きな話題になっている。

 2020年8月に発表されたロゴマークは、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」の「いのち」から「細胞」を連想して作られたというが、この時点でネット上では「かわいい」と「気持ち悪い」という両極端な声が噴出。

 2022年3月にロゴマークを最大限に生かした公式キャラクターのデザインが公開されるや、さらにネットは大盛り上がり。まだ名前はなかったが「いのちの輝きくん」という愛称で親しまれ、二次創作のイラストなどが多く生まれた。

 そしてこの7月、「いのちの輝きくん」という仮称から「ミャクミャク」という公式名称がお披露目になると、ネット上での人気はさらに加速。造形だけでなく「脈々」から着想を得た二次創作イラストだけでなく創作モノの伝説や民話までもが溢れはじめ、いまや「ミャクミャクさま」と敬称付きで呼ばれるようになっているのだ。

 いったいミャクミャクの何が人々の心をこうもくすぐるのか。「きもかわいい」だけでは説明できない不思議な魅力について、「ハンギョドン」「バッドばつ丸」の初代デザインを務めた元サンリオのキャラクターデザイナーの井上・ヒサト氏に話を聞いた。

ミャクミャクとビンドゥンドゥンにあってミライトワにないもの

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ミライトワとソメイティ(写真/Getty Imagesより)

──ネット上では「気持ち悪い」という声もありながら、大きな話題になっている「ミャクミャク」ですが、キャラクターデザイナーの視点から見てまず率直にどう思われますか?

井上・ヒサト氏(以下、井上)僕もかわいいだけのキャラクターには魅力を感じないタイプなので、ミャクミャクの不思議な容姿や奇抜さに好感を抱いてます。このボコボコ感もすごいよね。

──何かの動物を模しているわけでもないし、なんとも形容しがたいんですよね。

井上 僕はサンリオ出身ですが、サンリオからはこんなデザインは出てこないですよ。まず「かわいい」が基本にあるわけじゃないですか。かわいいというのは、幼児体型なんです。赤ちゃんとか幼稚園児のようなフォルムが「かわいい」の基本なんだよね。それでいうと、ミャクミャクはフォルムからしてちょっと異様(笑)。でもそこがいいよね。何者なんだろう?っていう興味をひくでしょ。

──具体的にデザインとしてどこが優れているのでしょうか?

井上 中央の口ですね。この口が笑っているというところがすごく大事なポイント。これがないと無表情になるから、もっと不気味に寄る。でも口が笑っているから、少なくとも「こいつ悪いやつじゃないな」と思うわけです。

──笑顔だから気持ち悪さが緩和されている?

井上 いやでも、今はまだ気持ち悪いほうが強いかもしれない(笑)。ところがね、キャラクターというのは不思議と見慣れてくるもんなんですよ。例えば、アンパンマンも最初はかわいくないという評判もあった。でも、アニメを見てキャラクターを知って、だんだんと定着していった。

── 一発で「かわいい」と理解できるキャラクターより、一瞬「え?」となるくらいのキャラクターの方が実は長く愛されたりするんでしょうか?

井上 そうそう。だからキャラクターには「不思議さ」も大事だと僕は思ってます。あとは、色合いもいい感じだよね。赤と青、たった2色で表現できている。デザインにおいて色数が少なく済むっていうのはメリットですよ。だって、グッズにするときにコストが抑えられるわけだから。キティだって、スヌーピーだって、ミッキーだって色数は少ないでしょ? 僕がサンリオにいた頃はあまり色数は気にしてなかったけど、いいキャラクターはやっぱりグッズ展開も考えて作られているわけで。そうなると色数が少なく、アイコンとかマークに近いものになるんだよね。

──国や都道府県が主導するイベントのキャラクターといえば、やっぱり東京オリンピックの「ミライトワ」、同パラリンピックの「ソメイティ」を思い出すのですが、ネット上の声だけを見るとミャクミャクの方が圧倒的に反響があります。

井上 僕はミライトワとソメイティも良いキャラクターだと思う。ただ、優等生すぎたのかな。見た目もかっこいいしスマートすぎるんだよね。「ハンギョドン」や「バッドばつ丸」にも言えるんだけど、危なっかしさとかちょっとズッコケた部分があるほうが共感を得やすいというのはあるんですよ。だってさ、ミライトワは優等生で足が速そうでしょ(笑)。まあ、オリンピックのキャラだからあまり情けないものは作れなかったのかもしれないけど、北京オリンピックのビンドゥンドゥンはコロコロしてた。あれもすごい人気だったじゃない。

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大人気のビンドゥンドゥンと戯れる羽生結弦(写真/Getty Imagesより)

──ビンドゥンドゥンがスケートリンクですっ転んで、それをフィギュアスケーターの羽生結弦選手が抱き起こした映像も話題になってました。

井上 文字通りズッコケてるよね、やっぱり。優等生のミライトワが転んだら、なんかかわいそうな感じがしちゃう。そこがビンドゥンドゥンやミャクミャクにあって、ミライトワにない部分なのかも。ようは「ツッコミどころ」というやつです。ミャクミャクはツッコミどころ満載だから。

──確かにツッコミどころの多さが、ネット上での二次創作にもつながっているというのはありそうですね。

井上 サンリオでもキティとかマイメロディとか、かわいいキャラクターは山ほどいたんですよ。でも、そればっかりじゃつまらないと個人的には思ってね。だから僕は一瞬ズッコケて見えるようなキャラクターを生み出したかったんです。サンリオだけじゃなく、今はかわいいキャラクターがたくさん溢れかえっているから、ミャクミャクのズッコケた感じが逆に多くの人の目についたのかもしれないね。

ミャクミャクに滲み出る岡本太郎イズム

井上 「ツッコミどころ」という話だと、大阪から生まれたということも大事なのかもしれない。お笑いに慣れ親しんだ土地柄だからこその「ツッコミどころ」だよね。僕もキャラクターデザインを頼まれたときは、そのキャラがどこで使われるのかが重要なポイントだと捉えてます。例えば、地方都市で使われるキャラクターなら、その土地性とか環境とか背景を調べながら作りますよ。

──大阪万博だったからこそ生まれ造形なんですね。

井上 それでいうと、僕がミャクミャクを見てまず感じたのが、岡本太郎の芸術の世界観。ミャクミャクの奇妙な造形はまさしく「なんだ、これは!」(編註:テレビ番組出演時の岡本太郎氏の決めゼリフ)じゃないですか。そう思うと、1970年の大阪万博で作られた「太陽の塔」のスピリットを受け継いでいると見ることもできるのかな。実は今回のキャラクター選考に僕も太陽の塔をリスペクトしたデザインを送っていたんですが、ミャクミャクが素晴らしすぎて僕のは落ちて当然だなと思いました(笑)。

──1970年よりあとに生まれた私でも岡本太郎=大阪万博のイメージは根強くインプットされています。

井上 そうですよね。だからミャクミャクも広い世代に訴求できるのかもしれません。岡本さんの名言で「グラスの底に顔があっても良いじゃないか」というのがあります。それで、太陽の塔の裏側にも顔がある。ミャクミャクも後ろに尻尾のような目のようなものがあります。普通だったらただの尻尾にしちゃうところを、目があるようにしてますよね。これも岡本太郎的だなと感じます。

──「きもかわいい」だけじゃないメッセージが込められているんですね。

井上 いや、相当考え抜かれてるんじゃないですか。東京オリンピックのエンブレム盗作疑惑騒動が起こってから、デザイナーも採用する側も相当神経質になっているはずですし。

──先ほど色数が少ない方がいいという話もありましたが、色数を減らしてシンプルにするほどに類似の危険性も上がる気がするのですが。

井上 ロゴマークだって似たものなんかいっぱいありますからね。一部分が類似してしまうなんてことは、しょっちゅうあることなんですよ。だけどミャクミャクは色数も少ないし、ロゴっぽさもあるのに似たものを見たことがないじゃないですか。そこもやっぱりすごいと思う。この思い切ったデザインを採用した人も偉いですよ。

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