お笑い芸人を次々と襲うストレス、うつにもなる“ネタ”との闘い
#お笑い #檜山豊
2021年キングオブコントファイナリスト、3人組コント芸人「ジェラードン」のツッコミをしている海野さんが、21年12月に体調不良を理由に一時活動休止。そして22年7月11日のステージから活動復帰を発表し、その3日後の7月14日に再度休養する為に活動を休止することを自身のTwitterで報告した。
休養する理由としては「アゴに出来た脂肪種」の手術や術後の療養の為に休むというものだが、別の理由として「ストレス」による体調不良ではないかとも言われている。ストレスによる体調不良と聞くと、どうしても「うつ」などの病気を想像してしまう。
昨年のキングオブコントから少しずつ知名度が上がり、テレビへの露出も増えたことから「頑張らなければ」という思いが強くなり、それがストレスの原因となり体調へ変化を及ぼしたのか、はたまたテレビへの露出と比例するようにアンチが増え、そのストレスにより体調不良になってしまったのか。
正直なところ本当の原因はわからないが、ストレスによる「うつ」だとしても違和感がない世の中になってしまった。
今回は元芸人として、お笑い芸人が受ける「ストレス」について少し軽掘りしていく。
お笑い芸人の仕事のひとつには「ネタ」がある。この「ネタ」がストレスの温床と言っても過言ではない。
芸人というのは基本的に、月に1本のペースでネタを生みだしていく。なぜ1カ月に1本かというと、芸人が所属する事務所は大抵1カ月に1回ライブがあり、そのタイミングで新しいネタ、つまり「新ネタ」を披露しなければならない。それなので必然的に1カ月に1本、新しいネタを生みださなければいけないという事になるのだ。1カ月に1本くらいなら簡単じゃないかと思う人もいるかもしれないが、ほとんどの芸人はその1本すら満足いくものが出来ない状態で披露することが多い。何故なら面白さの基準は人それぞれ違い、「これが答えだ」というものが無いので100人中100人を笑わせられるネタなんて奇跡でも起きない限りできることはない。ネタ作りは毎回雲をつかむような作業なのだ。
それをときには1人で、ときには相方と試行錯誤し、ようやく人前に出せる最低限のネタが出来上がる。次に待っているのは「ネタ見せ」だ。
これは事務所によって多少カタチは異なるが、大概作家やマネージャーに新ネタを見てもらい、ダメ出しをされるというもの。生みの苦しみを味わいながらようやく出来た「新ネタ」をダメ出しをされるのだ。たまったもんじゃない。「あんたに何がわかるんだ!」と言いたくなる気持ちをグッと抑えつつ、「はい! わかりました!」と好青年のフリをして、出されたダメな部分を踏まえながら、またネタの作成に取り掛かる。そしてやっとの思いで出来上がった70点くらいの新ネタをライブで披露するのだ。
これでようやくストレスから解放されると思ったら大間違い。ここからが最もストレスがかかる状態になる。
それは1カ月かけて作り上げたネタの「有り」「無し」が一瞬で決まってしまうからだ。しかもお客さんの笑い声が審査方法となり、ダイレクトに審査結果がわかるシステム。笑い声が多ければ「有り」で、笑わなければ「無し」なのだ。「無し」に分類されたネタは、面白くなる可能性が見出せれば再度作り直しになるが、ほとんどの場合捨てられる。つまりネタ作りにかかった1カ月が丸々「無し」になるのだ。想像しただけでストレスが溜まる。
ただ「有り」になったからと言って安心してはいけない。ネタというのは鮮度があり、青魚のように足が早い。ライブだと10回、テレビだと5回くらい披露すると限界くる。それ以上披露した場合「また同じネタやってるよ」と言われてしまう。1カ月かけて作り、微調整しながらようやく完璧に近いネタになったとしても計15回使えるかどうか。鮮度が落ちたネタは地方の営業用に回される。
よく芸人が言っているが歌手の方が作った「良い歌」は何度披露しても喜ばれるが、芸人が作った「良いネタ」は何度も披露してしまうと飽きられる。ごく稀に「何度披露しても喜ばれるネタ」というものがあるが、それはリズムネタのような「良い歌」要素が入っているものが多い。つまり芸人が歌手の方に寄った「ネタのような歌」にすぎない。
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