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日刊サイゾー トップ > エンタメ  > バラエティーと芸人たちの“曲げた美学”
“本気”なすべての人に刺さる神回

ハマカーン神田の『しくじり先生』で考える、バラエティーと芸人たちの“曲げた美学”

バラエティで最も面白いのは、ありのままの“本気”

 神田からすると手応えを感じず、本意ではなかったにしろ、今回のハマカーン企画は完全に跳ねた。バラエティとして大成功を収めたし、この『しくじり先生』によって明らかに彼は業界から“見つかった”。

平子 「僕も人から見るとねじ曲がった、まっすぐな目線を持ってて、逆に『お前おかしいぞ』ってことで仕事が回ってきたんです。神田さんも、今日を境にバラエティのオファーが絶対来ますよ」
吉村 「神田さん、今、自分が思っている以上にバラエティは遠くないよ。数ミリ右に行くだけでバラエティのど真ん中に行ける」

 正義感の強い常識人が、バラエティの現場に入ると異常者扱いされる。よくよく話を聞くと真っ当なことしか言っていないのに、こんなに面白くなるのだからバラエティの世界はつくづく異常だ。皮肉にも、芸人に混じると神田はいるだけで貴重な存在になる。

 同じケイダッシュステージ所属として、オードリーはハマカーンとどきどきキャンプの後塵を拝していた過去がある。神田へのひとかたならない思いを持つ若林は、神田に寄り添い続けた。

「自分の美学を抜いて現場に刺せば……楽なんだよ、バラエティって。でも、それは確かに下劣な品性なんだよね、俺たちの仕事は。美学を自分の中に持ったままのバラエティはキツイよ、そりゃあ」(若林)

 神田の性格を知りつつ、勇気を持って神田と向き合う若林が涙声だ。

神田 「若ちゃん、下劣とかちょっとも思ってないよ」
吉村 「なんなんだよ! 教えてくれよ、神田って何人いるんだよ(笑)!?」

 神田の人格が何個もあるのではなく、考えすぎていびつになっただけな気がする。自分の黒い部分がわかっているから、せめて真面目に生きようとした。だからこそ、不真面目で無頓着な者には攻撃的になる。そんなふうに美学を貫く神田を若林が羨ましがり、バラエティを全うできる若林を神田が羨ましがっているように見える。

 エンディングでは、若林の無茶振りによるハマカーンのアドリブ漫才が行われた。浜谷に頭を叩かれて不機嫌になったり、「嫌いなものは占い師」と口にしたり、神田の中にある真実をフィードバックした即興ネタだった。『THE MANZAI』チャンピオンは、さすが伊達じゃない。若林たちに漫才を褒められたときだけは、ちゃんと嬉しそうにしていた神田の表情は印象的だった。

若林 「頭からやってきて、最後は漫才で締めましたけど。神ちゃん、今日の収録は楽しめました?」
神田 「楽しくはないですよ」
若林 「オイ、俺たちの時間なんだったんだよ!」

 この場にいるタレント全員に“曲げた美学”があるはずだが、特に神田の持つ美学はバラエティと対極のものばかり。だから、演者として難しさを孕んでいた。

 しかし、それがいつしか、ありのままで面白くなる境地にたどり着いていた。人間性の部分で笑いが取れるなら、それは才能である。テレビで本当に面白いのは、キャラにしろ喜怒哀楽にしろ“本気”だ。ありのままが面白いなんて最高。今回は、神田の生き様を見る回だった。

 もちろん、神田が最後に口にした「(今日の収録は)楽しくはない」の言葉は、バラエティを意識した彼なりのワードだろう。最初から最後までありのままだったのではなく、彼は彼なりに空気を読んでいた。バラエティに順応しすぎると、今ある面白さが薄まりそうな裏腹さも含んでいる皮肉。いずれにせよ、深く考える価値があるバラエティショーだった。

 今回、各ブロックのオチをすべて神田が一言で仕留めていたのは事実だ。求められる作法のみこなす時代を脱し、個でぶつかる“多様化の時代”も象徴している。吉村が言ったように、バラエティの中心までは「あと数ミリ」か? こんなに面白いのにヒマカーンなんて、やはりもったいない。

 

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2022/07/21 11:00
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