ハマカーン神田の『しくじり先生』で考える、バラエティーと芸人たちの“曲げた美学”
#オードリー #若林正恭 #ハマカーン #しくじり先生
バラエティで求められる作法と自分の美学、折り合いは付けられる?
「イジられるとすぐブチギレる」以外にも、神田には困った特徴がある。それは、「“神田うのの弟キャラ”をうまく使えない」だ。彼のおぼっちゃまエピソードとして特に出色なのは、「毎年、神田うのからお年玉をもらっている」「神田うのにもらったブラックカードを常に持ち歩いている」の2つである。
「『お年玉をもらってる』ってありますけど、今年はもらわなかったです」(神田)
とは言え、ブラックカードという一生分のお年玉は受け取った神田。他の芸人からすれば羨望の的だ。もちろん、金銭的な意味ではない。
平子 「外ロケとか行って、何か買った後に必ずブラックカードを出したら、それだけで面白い。『ブラックカード、ブラックカード!』って周りがワーっとなって」
若林 「めっちゃ羨ましいと思っちゃうんだよね、芸人は」
神田 「以前、よくネタで『お姉ちゃんのカードがありますんで』って言ってたんだけど、姉に『周りの人に自立してない大人に見られるから、使っていいけど“使ってる”って言わないでね』って言われたんで。だから……言いたくないんです」
2019年、2人で『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に出演した神田姉弟。彼にとって、うのは大事な家族だ。
浜谷 「でも、ロケで(カードを)出すとかはダメなの?」
吉村 「で、実際に(そのカードは)使わない」
神田 「それは、ロケ中に嘘をつくんでしょ?」
浜谷 「いや、そのくらいの嘘はさあ……嘘なの? この教室、嘘だよね!? (若林たちを指して)学生じゃないよね!? 嘘だよね? これくらいは。バラエティのノリってどうなんですか?」
吉村 「漫才だって嘘つくじゃないですかねえ? 練習してるのに知らないフリしたりとか」
神田 「漫才は思想をぶつけ合ってるだけだから。漫才コントをやめてからは、ほぼほぼ嘘をついてないから。……家族が嫌がること、やんなきゃダメ?」
神田のキャラをイジっていたはずが、いつしかテーマは「バラエティ論」に突き進んでいった。
「芸人って(自分に刺さった)軸を抜いて、それをバラエティに刺して、バラエティが1番合理的に盛り上がるほうで考える。自分の正義を抜いて。『演者さんが人気があるなら、お客さんが来る。興行的にも良くなる』というところに軸を刺せば、自分の仕事になるじゃない。歯車になれるかなれないかで。本人が『軸を抜いてまでバラエティに出たくない』って言うんだったら、今日の授業はもう終わりですよ(笑)』(若林)
己の軸を曲げられない神田は、バラエティの世界で異常者になってしまった。これは、芸人だけの苦しみじゃない。仕事で求められることと自らの美学に、どう折り合いつけるか? この葛藤は、真剣に働いている者なら誰しもが共感する苦しみのはずだ。
心は折れたが美学は折れなかった神田
話題は「バラエティ論」にとどまらず、「芸人論」にも突き進んでいった。
神田が備え持つ特徴として、「セレブすぎて世間とズレている」はお馴染みだ。ここで出色だったのは、『THE MANZAI』直前の東MAX(貴博)とのエピソード。ハマカーンが『THE MANZAI』決勝に進んだ際、東は2人にスーツをプレゼントしようとした。しかし、神田はその申し出を断ったらしい。姉であるうのにスーツを仕立ててもらい、それで出ると決めていたからだ。
浜谷 「東MAXさんが、我々に『スーツを一式、作ってやる』と」
神田 「今、『スーツ作る』って言い方したけど……」
吉村 「違うの?」
神田 「これ嫌だなあ。もう、全部言いますね。吊るしのスーツ、体に合わないでしょ?」
「オーダーメイド」という言葉は知っていたが、「吊るしのスーツ」という言葉を聞いたのは初めてである。このパワーワードに、スタジオは沸き返った。
神田 「誰もが嫌な思いするから言いたくないの!」
吉村 「いいじゃん、最高じゃん、おぼっちゃまじゃん!」
若林 「この状況も神ちゃんは嫌なの? ウケちゃってるのも?」
神田 「いや、ウケてるのはありがたいですよ。『私みたいなもんがバラエティになったんだ』って思うんだけども、(誰かが)嫌な思いするじゃん。吊るしを普段買ってる人は、『なんじゃ、アイツは』って思う可能性あるじゃん!」
吉村 「それがお笑いじゃない!」
若林 「そうだよ。俺たちなんか嫌われまくってる職業よ。あと、知性も品性もないよ、芸人なんて。やっぱり自分は下劣な人間だなって思うけど、東さんにスーツ作ってもらって『着ない』ってやりたいもん(笑)。そうやって飯食ってるから、(俺たちは)下劣なのよ」
吉村 「で、もっと1個奥にあるから。『吊るしのスーツ』って(ワードに)我々は辿り着けないよね」
若林 「だから、新しいじゃん。時代も変えてくれる、バラエティの古いところも壊せる人材なんだよね。でも、(神田が)やりたくなかったらしょうがないよ?」
人も羨む「まっすぐな目線」という武器を持ちながら、それを振るいたがらない神田。「まっすぐな目線」の持ち主だから、バラエティに拒否感を示してしまう。彼からすると、バラエティは人にやっちゃいけないことだらけに見えるのだろう。そんな世界への順応は、神田にとって非常につらいことだった。
彼がバラエティに順応できないもう一つの理由は、自信の喪失だ。
「皆さん、お笑い始めたてのときは自信あるでしょ? で、いざ始めてみて、やっぱり私、折れたんです。周りは面白い人ばかりで。そして、『もう辞めようかな』って時期にたまたま『THE MANZAI』優勝できて、バラエティに呼んでもらって。1回自信が復活して、ここ10年でまた折れたんで、人の倍折れてるんです。2回折れてるんで、『ダメだぁ!』と思って」(神田)
心は2回折れたものの、美学は折れなかったから余計に苦しかった。「ここ10年、バラエティにNOを突き付けられてきた」と神田は言ったが、その真面目さゆえ、彼自身がバラエティにNOを突き付けていた面もあると思うのだ。
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