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日刊サイゾー トップ > エンタメ  > バラエティーと芸人たちの“曲げた美学”
“本気”なすべての人に刺さる神回

ハマカーン神田の『しくじり先生』で考える、バラエティーと芸人たちの“曲げた美学”

バラエティで“異常者”扱いされる神田と、若林の過去

 一見、人当たりのよさそうな神田には「イジられるとすぐブチギレる」という特徴があるという。それを表すエピソードとして、伝説の「毒舌占い師 魚ちゃんにガチギレ事件」が紹介された。

『THE MANZAI』優勝後、当時“毒舌占い師”として名を馳せた魚ちゃんと芸人数組でイベントに参加。そこで、魚ちゃんから「まぐれで優勝した」「今後、生き残らない」と言われた神田。他の芸人は彼女の毒舌に笑いで返していたが、唯一、彼だけが「人の悪口で飯食ってんじゃねえよ」とガチギレし、場を凍りつかせてしまったのだ。

 芸人として、たしかに空気は読めていない。ただ、バラエティの定石、お約束を外して考えてみると、一般的には正論パンチである。

浜谷 「神田さん、よく言うと正義感が強くて1本筋通ってるっていうか。正しいことを言ってるんですけど、バラエティの現場に入ると異常者なんです」
若林 「誰が異常なんだろうね、そう考えると?」
神田 「芸能界が異常なんだって!」

 今、収録が行われているこのスタジオには、神田を除き、バラエティのノリに順応できるタレントばかりがいる。最初から順応できた者もいるだろうし、次第に血の入れ替えを行った者もいるだろう。MCのオードリー・若林正恭は後者だ。2014年4月26日放送『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)で、若林は収録中にある心理学者にキレたエピソードを明かしていた。

「(ある番組に)若手芸人が出てきて、ネタを見るコーナーがあって。その芸人がまた、俺らと付き合いが長くて。共演できたことがすごい嬉しくて。(中略)そしたら、心理学者が『若林さんは、若手芸人さんがネタをやってるのをすごく見下して見てるんです』って。それを聞いた瞬間、俺キレちゃって。12年くらい前に知り合った芸人で、共演できて嬉しくて。なのに、『見下してる』っていきなり言ってきて。『俺は絶対、芸人さんをそんな目で見てない!』って言っちゃったの。とんでもない空気になったよ(笑)」(若林)

 若林は、神田に対し「ほっとけない」という感情を抱いている。以下は、今年7月9日放送『オードリーのANN』での若林の発言。今回の『しくじり先生』収録を振り返ってのトークだった。

「俺もさ、どっちかって言うと神ちゃんの言ってることがわかるっていうか。まあ、『かつては』になっちゃうなあ。『(自分も)神ちゃんの感覚でバラエティに出たな』とか思いながらの収録だったのよ」

「俺も神ちゃんの気持ちもわからんでもないのよ、現場では言ってないけど。(中略)まあ、とにかく(魚ちゃんを)俺も別に好きではないのよ。嫌いでもないけど」

 神田が異常なのか、それともバラエティという世界が異常なのか? そんな命題の他にもう1つ、神田のガチギレには理由があった。それは、「基本的に占い師を認めていない」という考えだ。

「占い師って当たったときだけ『実は、あのときこう言ってました』って言って、はずれたときに謝罪してる奴を見たことあります? ギリ、それを楽しむ人がいるならいいんだけど、なに毒舌って? 『どうせ嘘つくなら、相手が嫌な思いしない言葉使ってよ』って思うんです」

「まず、(魚ちゃんは)俺がキレる人間って占えてなかったんですよ。まともな占い師なら、『こいつに言ったらキレる』ってわかるから言わないじゃん。こいつら、嘘ついてんだよ」(神田)

 引退した上岡龍太郎は、占い師に「今から僕があなたを殴るか殴らないか占え」と迫り、「そんなことはしないでしょう」と返答された後、その占い師を殴ったという逸話がある。「俺がキレる人間だと占えてなかった」という指摘は、まさに上岡ばりだ。道理に合わないことは承服できないし、融通も利かせられない。「バラエティ病」にかかっていない神田は、理論と思想と実直さで占い師に食って掛かった。

 さらに、神田は「モノマネ芸人を認めていない」という考えの持ち主でもあるらしい。モノマネ芸人が多いケイダッシュステージ所属のタレントとしては、かなりの問題発言だ。

「例えば、カラオケを歌ったら作曲した人に印税入るでしょ? それは、最初に作った人に対しての対価じゃん。その人の財産にタダ乗りして、どっかのショーで歌って金もらって。これは印税を払うべきだと思うんですよ」

「(芸人は)漫才とかコントという作品があるから、『観てください』でお金もらうのはわかるんですけど、タレントさんって“自分”に価値があると思って(収録現場に)立ってるんでしょ? 俺、自分自身に価値あると思ってないから、今は『これでいいのかな』って思ってるし。漫才だったら喜んで(バラエティの収録に)行ってます」

「もちろん、ネタやってるモノマネ芸人さんはすごい尊敬します。だから、原口(あきまさ)さんがただ他人の歌を1曲歌うだけとかでステージしてたら、本当尊敬してないと思います」

「皆さんは“人間”に価値がある状態なんです。それが、タレントさんじゃないですか。その、自分自身に価値を持った皆さんに、今まで作り上げたものにタダ乗りしてんですよ、コイツら(モノマネ芸人たち)は」(神田)

 ハマカーンの漫才は、おかしなことや納得いかないことに対し、「下衆の極み!」と浜谷がブチギレることで展開するのがパターンだ。しかし、現実社会では納得のいかないことに神田がキレるケースのほうが多い。だから、毒を吐いてしまう。

「(自分の)性根は良くないんです。人が物を言うのは『知性』で、何を言わないかは『品性』だと思ってるんです。自分はいろいろ足りてないと思っているし、放っておいたら垂れ流しにして人を傷つけちゃうから、なるべく蓋してるんです。その蓋を(今回の『しくじり先生』は)面白がって取るから」(神田)

 相手の立場には立ちたい。だけど、完璧にはできない。そんな、人間として仕方ない部分さえも自己嫌悪する神田。だから、蓋をしてきた。しかし、『しくじり先生』はバラエティ番組だ。腹の底に抑え込んだ感情を剥き出しにされ、しかもその“キレ”がスタジオでは大ウケしている。でも、本人としては不本意。彼の吐く毒は収録を沸かせたが、神田は毒と血を同時に吐いている。

神田 「皆さんは(今回の収録が)面白いんでしょ?」
若林 「えっ、神ちゃんは今、楽しくない?」
神田 「楽しくない」
吉村 「こんなに盛り上がって、楽しくない!?」
神田 「楽しくない」

 バラエティ病患者一人ひとりに対し、「あなた達は異常ですよ」と神田が殴りつけにいく構図にも見えた。若林が言うように、一体誰が異常なのだろう?

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