ハマカーン神田は異常者か? バラエティの“優しさ”と“無神経さ”の狭間で
#テレビ日記
井森美幸「私ね、そこまでつかめてないの、自分自身が」
「裸のトークバラエティ」を謳う『あちこちオードリー』(テレビ東京系)。その13日の放送に、井森美幸がゲスト出演していた。
井森がトーク番組に出ることは少ないらしい。たしかに、有吉弘行の番組で街ブラロケをしている姿はよく見るものの、椅子に座ってじっくり話しているのを見る機会はあまりないかもしれない。彼女自身も次のように言う。
「(トーク番組に出ることって)あんまりないんだよ。だいたい、どっか行ってたまげるとかね」
では、そんな井森はめずらしいトーク番組への出演で、何を語ったのか。それはもう、“浅い”のひと言に尽きる。そして、そんな“浅い”トークが面白いのだ。
たとえば、1985年にデビューしたという井森。すでに芸歴37年だという事実に周囲が驚くと「寝て起きて寝て起きて繰り返してたらなるよ」と言う。プライベートを聞かれても、盛り上がる話は出てこない。モーニングルーティーンを聞かれると「テレビと新聞だね」と答え、仕事が終わったあとは誰かと食事に行きたいがなかなか同業者とは時間が合わないので「最悪、いとこと会ってる」と答えたりする。
もう、何も劇的なことはないのである。そんなプレーンな日常をただただ語る井森がなぜだか面白い。たぶん、普通のことしか話せない人が、本音トークを期待される場に引っ張り出されているように見える状況が面白かったりするのだろう。いや、井森が本当に“浅い”ことしか話せないのか、そういうふうに見せているだけなのかはわからないけれど。
そんな“浅い”井森に対し、若林は「テレビ界でこういう人は残る、こういう人は会わなくなっちゃうな、なんていう哲学はないですよね?」と問いかける。仕事上の哲学がないこと前提の質問に、「あるよ!」とクレーム気味に反応する井森。しかし、「あるんだよ」「あると思うよ」「あるんだろうね」と徐々に主張はトーンダウンしていき、「私ね、そこまでつかめてないの、自分自身が」と漏らしてしまう。
だが、さすが芸歴37年のベテラン。長く芸能界で生き残る秘訣を後輩に聞かれることもあるという。そんなとき、井森はどう答えるのか。
「ときどきやっぱり相談される。長くやる秘訣なんですか? みたいな。でもなんなんだろうって、自分でもわかんないんだけど」
結局、わかんないのだ。で、ようやく絞り出した仕事の秘訣は「見て感じる」である。あるいは「とにかく全力でやる」である。
同じことを別の人が話したら、もしかしたら深い意味を持ってしまうかもしれない。たとえば、叶姉妹のお姉さん、叶恭子が「周囲を見て感じるのが大事」みたいに語ったら、少なくない人がありがたく拝聴しそうだ。叶姉妹の正体不明さと規格外の体格が、何を話しても言葉に意味を持たせてしまう。もっと“お言葉”を聞きたくなってしまう。
対して井森は、何を話しても軽くなってしまう。かといって、もっと深いことを聞きたいという感じにもならない。「裸のトークバラエティ」で自分から思わず語っちゃわない。ただただおもしろい。
が、翻って考えてみると、これこそ「裸のトーク」という感じもしてしまう。少なくとも、これもひとつの「裸のトーク」のあり方だと感じてしまう。普通、人はそんなに深いことなんて話せない。表層的なことしかしゃべれないのだ。にもかかわらず、深い話(に聞こえる話)をするのが本音トークを標榜する番組で、そこではショーとしてある種の無理が行われているのだろう。番組や出演者によっては、本音トークの“型”(あるいは自己啓発的な語りのパターン)のなぞり合いを感じることも少なくない。
何を話しても軽くなってしまう。しかしそれが面白くなってしまう。本音トーク全盛のなか、井森美幸は気づかないうちにそんなところにいた。その面白い“浅さ”は、テレビのなかで何年も「たまげる」を続けてきた時間の厚みの上にしか生まれない。――って、そんなふうに井森の言動に意味をもたせてしまっては台無しなわけだが。
※「テレビ日記」先週の話
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