ひろゆき読んでることだけは…フワちゃんの本棚とコンセプトと「緻密な破天荒ですね」
#テレビ日記
矢部浩之「この宮司さん見た人、みんな好きになる」
番組のコンセプトをわかりやすく伝えるタレントもいれば、コンセプトが最後までよくわからない番組もある。
今年4月から5月にかけて6回ほど放送された『ここにタイトルを入力』(フジテレビ系)。クイズ番組やロケ番組、トーク番組などの体裁をパロディしたような実験的なバラエティ番組だった。最近、深夜帯を中心に各局で実験的なバラエティが増えている印象があるが、そんな「実験バラエティが最近増えている」というイメージをテレビ好きに刻んだ番組のような気がする。
そんな『ここにタイトルを入力』を企画・演出を担当したスタッフの新たな番組『あえいうえおあお』(同前)の初回が、8日に放送されていた。今回も全6回のようだ。
番組のコンセプトは、取材のプロであるアナウンサーが本当に知りたいことを取材する、といったもの。何も知らされずアナウンス室の一角に招かれた矢部浩之(ナインティナイン)と後藤輝基(フットボールアワー)の2人は、言われるがまま取材VTRを見ていく(いや、実際のところ2人が何をどこまで知らされていたのかはわからないが、そういうテイで番組は進行していく)。
初回の放送で流されたのは、宮司愛海アナウンサーの取材VTRだ。音楽好きな彼女は、特にヒップホップが好きらしい。ラッパーはどんなふうにリリックを書いているのか。あわよくばネタ帳を見せてほしい。そんな取材テーマで、宮司アナは渋谷を行き交う人びとに街頭インタビューをしていく。
しかし、街の人はなかなかインタビューに答えてくれない。取材拒否に次ぐ取材拒否。数少ない協力者からも、ヒップホップにつながる話は聞かれない。「こういう外のインタビューで『お話聞けますか?』って声かけていくの久しぶりすぎて、結構心折れる」と口にしていた宮司アナ。断られることが続き、男性スタッフ相手の弱音も徐々に多くなっていく。
膠着する取材。見かねたスタッフが「いったん休憩しますか?」と声をかける。カフェに入る宮司アナとスタッフ。なぜヒップホップが好きになったのか。彼女は最初そのルーツを語っていたが、徐々に話の内容はアナウンサーとしての悩みへと移っていく。
ストレスを発散する場所がない。ハメを外せるタイミングがない。カフェで話をしていると思ったら、映像は切り替わってノリノリでカラオケを歌う宮司アナ。さらに、ドン・キホーテで日焼け止めを買うと言いつつ花火を購入する宮司アナ。夜の海辺で花火に興じる宮司アナとスタッフ。花火を終えた彼女は体育座りをしながら、自身の弱みをさらにさらけ出す。フランクな語り口。弾ける笑顔。VTRを見ていた矢部がコメントする。
「この宮司さん見た人、みんな好きになる」
取材風景の映像として始まったVTRは、いつの間にか疑似デート映像になっていたわけだ。たとえとしては古いが、SNSで「#彼女とデートなうに使っていいよ」として投稿されるようなショットの連続。どこからねじれたのか。最初からねじれていたのか。いや当然、最初からねじれていたのだろう。が、最後まで、これがねじれた番組であるという種明かしもされない。「見てたらがんばれってなるわ」などとVTRに寄り添い気味の矢部と、「何してんねん!」と映像の疑問点を鋭くツッコむ後藤。そんな2人のコメントの間で、VTRの意味が宙に浮く。
『ここにタイトルを入力』のときにも、最後まで種明かしはなかった。小峠英二(バイキング)の顔が鏡で分割されていても、画面上に誰も映らずほぼテロップとBGMだけで番組が進行していても、「この番組はフィクションです」のような答え合わせはなかった。収録を終えた出演者が「なんすかこの番組(笑)」とスタッフと笑い合う、そんな“楽屋裏”のシーンが最後に挿入されることもなかった。が、この番組が実験的なものだというシグナルは、映像の端々から発されていた。
しかし、今回の『あえいうえおあお』では、これが実験番組であるという裏のコンセプトすら、その痕跡が限界まで消されている感じ。コンセプトがわからないというコンセプト。そうとしか言いようがない。不思議な番組を見た。
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