山岳映画『アルピニスト』と『神々の山嶺』同日公開 狂気以上の“映画館で見る価値”
#アルピニスト #神々の山嶺(いただき)
『神々の山嶺』:日本の漫画をフランスでアニメ映画化した、登山家の「業」を追う物語
『神々の山嶺』はフランス製のアニメ映画ながら、日本の作品が原作だ。夢枕獏による小説を『孤独のグルメ』の作画でも知られる谷口ジローが漫画化しており、フランスで絶大な人気を誇っていたのだ。
その谷口ジローは、このアニメ映画版の作画やストーリーの確認に携わっていたものの、2017年に亡くなり惜しくも完成版を観ることは叶わなかったという。だが、谷口が存命であったら、その出来栄えに満足していたに違いない。構想から完成まで7年かけただけのことはある、アニメとしてのクオリティーはもちろん、かなりの長編であった原作を94分の時間内に収めるための換骨奪胎ぶりも、完璧と言っていいほどだったのだから。
物語は、山岳カメラマンの主人公・深町が、何年も前に消息を絶った孤高のクライマー・羽生がジョージ・マロリーの遺品と思われるカメラを手に去っていく姿を目撃することから始まる。フィクションだが「マロリーはエベレストの初登頂を成し遂げたのか?」という現実の登山史上最大の謎をフックしながら進む物語にもなっている。
そこには、登山家の「業」とも言うべき執念、いや狂気がありありと見えてくる。孤高のクライマーの足跡を追うと、彼には協調性がないばかりか、拭い去れない後悔を抱えていることがわかり、それでもなおもエベレストを目指すという目的に「取り憑かれている」ように見えてくる。それでいて、ただ理解できない狂人というわけでもなく、その人間くささや複雑な内面も見えてくるので、観客もまた主人公の山岳カメラマンと同じ目線で彼のことを「知りたい」と思えるようにもなってくる。
その原作にあった魅力が、多少のカットもありながらも要点を的確に抑えて映像化されていることが何よりも嬉しい。当時の日本のビルや居酒屋のシーンなど、日本文化のディテールにも大いにリスペクトを感じる。予備知識なく観ても楽しめるし、後から原作を読んで省かれたエピソードや描写を追うのも面白いはずだ。
そして、一面が雪に覆われ時に吹雪にも見舞われる過酷な環境の恐ろしさも、十分な尺を使って観客に「擬似体験」させてくれることも本作の意義。本作が多くの国でNetflixでの配信が行われている一方で、日本では劇場公開が実現したことはまさに僥倖。『アルピニスト』と同じくスクリーンで観てこその映像体験が間違いなくあるので、この機会を逃さないでほしい。また、上映されているのは吹き替え版のみとなるが、堀内賢雄や大塚明夫や逢坂良太や今井麻美など、豪華声優陣による声の演技もまた絶品なので、安心してご覧になってほしい。
『アルピニスト』
出演:マーク・アンドレ・ルクレール、ブレット・ハリントン、アレックス・オノルド(『フリーソロ』) ほか
監督:ピーター・モーティマー、ニック・ローゼン / 制作:レッドブルメディアハウス
配給会社:パルコ ユニバーサル映画
原題:『THE ALPINIST』
2021年/英語/アメリカ映画/G/93分/ビスタ/
7/8(金) TOHOシネマズ シャンテ 他全国公開
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『神々の山嶺(いただき)』
原作:夢枕獏(原作)谷口ジロー(漫画)「神々の山嶺」(集英社刊)
2021/94分/フランス、ルクセンブルク/仏語/1.85ビスタ/5.1ch/原題:LE SOMMET DES DIEUX /吹替翻訳:光瀬憲子
配給:ロングライド、東京テアトル
C) Le Sommet des Dieux – 2021 / Julianne Films / Folivari / Melusine Productions / France 3 Cinema / Aura Cinema
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