『破戒』間宮祥太朗が見せる“芯”と“間” 島崎藤村の名作が今、映画化される理由
#映画 #石井杏奈 #間宮祥太朗 #矢本悠馬
同じ人間なのに……という心からの叫び
冒頭では、間宮祥太朗が演じる主人公の丑松と同じ宿に泊まっていた老人が、穢多だとわかったことで、宿全ての畳替えをされ、石を投げられ、塩をまかれるという、同じ人間とは思えない扱いを受ける衝撃的なシーンからはじまる。それを見ていながらも、何もできない瀬川もまた、穢多の出であった。
父から「何があっても身分を隠し通せ」と教訓のように言われ、それが頭から離れない。そんな丑松は身分を隠し、教師になった。教師として、子どもたちに、差別をしない人間になってもらいたいと、正しい道に導く使命を感じている。生徒からも慕われ、周りからも一目おかれる人格者である。だからこそ、なんら科学的根拠のない、まやかしのようなものであるはずの差別がまかり通っていて、自分の出自を隠し続けることへの矛盾と、それを口にできないもどかしさを感じている。
そんな中で、東京から赴任してきた新たな教師・勝野が波風を立てる。東京は、新しい文化が生まれたり、女性の社会進出が進んでいたりと、急激に発展している。新たな変化を受け入れていかなければならない、と言っておきながら、この勝野という男が、昔ながらの差別主義者であったのだ。さらに厄介なのが、勝野もそれに加担する人々も、差別をしているという意識がないことだ。むしろ、有害な者から身を守っているのだと思っていたりもする。
それこそが、潜在的な差別意識というものの根深さであり、恐ろしさである。何かを敵視することで、差別意識を正当化させてしまうのだ。たとえひとつの差別がなくなっても、また別の差別や偏見が生まれる構造は、世界中、もちろん日本にも、いまだに多く存在している。それは人間が弱いからだ。「私には差別意識なんてない」と言う人がいても、人々の心の中にある潜在的な差別意識というのは、人間である以上、完全になくなることはないだろう。だからこそ、考える必要がある。北朝鮮、アフガニスタン、ロシアも……一部の人間の行いによって、その国自体や人々を悪者のように思っていないだろうか、怖いと思っていないだろうか。
一度立ち止まって、普段は見えづらい、見ないようにしていたことに目を向けてみようと感じることこそが、本作の意義ではないか。今の世と照らし合わせながら、改めて考える。そんな機会を与えてくれる作品だといえる。シンプルな物語ではあるが、必ず心に刺さるものがあるはずだ。
今春に主演したドラマ『ナンバMG5』(フジテレビ系)のように極端にテンションの高い役があれば、逆に異常に低いテンションの役も演じたりと、演技の振り幅の大きい間宮祥太朗。今作では、彼の演技の中にある”芯”を見ることができる。特に注目すべきは、間宮の“間”の使い方だ。セリフで全てを語らずとも、表情と間で心情を伝える境地に達しているといえるだろう。
間宮の演技によって、丑松というキャラクターの決断に説得力を持たせていることは間違いない。
映画『破戒』
7月8日公開
企画・製作 全国水平社創立100周年記念映画製作委員会
制作 東映株式会社
制作協力・配給/宣伝 東映ビデオ株式会社
制作プロダクション 東映株式会社京都撮影所 上映時間 119分
原作:島崎藤村『破戒』
脚本:加藤正人/木田紀生 監督:前田和男 音楽:かみむら周平
キャスト:間宮祥太朗 石井杏奈 矢本悠馬 高橋和也 小林綾子 七瀬 公
ウーイェイよしたか(スマイル) 大東駿介
竹中直人 / 本田博太郎 / 田中要次 石橋蓮司 眞島秀和
公式サイト:http://hakai-movie.com
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事