『鎌倉殿』ついに“序章”終了――頼朝の死と、後家・北条政子の「尼将軍」の始まり
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後家・北条政子が存在感を増していく『鎌倉殿』の“第2章”
さて……頼朝が亡くなり、次の鎌倉殿を誰にすべきかという議題で、北条時政と比企能員(佐藤二朗さん)が揉めた際、大江広元(栗原英雄さん)は「ひとまず全成殿に任せ、若君が十分成長されたところで鎌倉殿の座をお譲りになるというのはいかがでしょうか」との折衷案を出していました。しかし、これは譲るという約束が本当に守られるかどうかの確約がなく、とても不安定な案だったといえるでしょう。話し合いはさらに紛糾しますが、それまで黙っていた義時が「我らの誰にも決めることはできませぬ!」と一喝、「御台所のお裁きに委ねるしかない」と場を鎮めていました。
かつて武家社会では当主の死後、正室(御台所)には大きな仕事がありました。歴史用語では「後家役割」と呼び、夫の菩提を弔い、夫の子供たちを後見するという役割です。中でも「誰それを自分の後継者とする」という遺言がある場合、それを守っていくのが後家となった正室の大切な使命でした。
ドラマでも、それが梶原景時(中村獅童さん)から吹き込まれた知恵だったにせよ、最初は「自信がない」と言っていた頼家(金子大地さん)を説得したり、鎌倉を去ろうとしていた弟・義時をなんとか引き止めたりと、政子は頑張りを見せていました。これも「後家役割」ですね。まぁ、史実の義時は、それほど権力に対し淡白だったとは思えないのですが……。
当主の男性が生きている時は、女性が政治に積極的に介入することは許されませんが(ドラマの政子も「政には口を出すなと鎌倉殿にきつく言われておりました」と話していましたね)、次の当主(多くの場合、正室の子)が若年で就任した場合、その男性よりも彼の母親、つまり政子のような後家が一族の中心的存在となりうるのです。
頼朝より10歳年下の政子も、当時では老境の入り口とされる40代に入っていますが、それでも政治の中心に「尼御台」として君臨しつづけ、いまいち頼りない頼家、実朝を支えようとしました。それだけでなく、『吾妻鏡』によると、後年の頼家の幽閉(そして一説に彼の処刑)、比企氏の討伐もすべて政子の「仰せ」であったとされます。
つまり、政子の息子として頼家と実朝は鎌倉殿(将軍)に就任していますが、その時代でさえ、鎌倉の最終意思決定者は北条政子であり、夫・頼朝亡き後の政子は「後家役割」を必死に果たし続けたと見られるのです。それが幕府の中枢から頼朝の血統を排除していく結果につながっていったのは、偶然か、それとも必然だったのか……今後の『鎌倉殿』でどう描かれるか興味深いポイントのひとつですね。
頼朝が亡くなり、ついに『鎌倉殿』は“新章”に突入です。次回予告では「長い序曲(プロローグ)が終わる」「パワーゲーム開幕!」「火花散らす権力闘争(バトルロイヤル)」などとあり、第2章は政治闘争がメインテーマとなるのでしょう。それに先駆け、あらためて考察したいのは、政子が、鎌倉から去ろうとしている義時に亡き頼朝の髻から発見した小さな観音様を手渡したシーンの演出です。
義時本人は伊豆に戻り、以前のような暮らしを送るつもりだったようですが、過去には「少しずつ(義時は)頼朝に似てきてる」という三浦義村(山本耕史さん)のセリフも出てきましたし、『鎌倉殿』では義時こそが頼朝の遺志を継承する人物という位置づけなのかもしれません。ただ、遺志だけでなく、宿命さえ頼朝から彼は受け継いでいかねばならないのでしょう。晩年の頼朝が苦しんでいたような、権力者ならではの孤独や猜疑心に、義時もまた苛まれるようになるのだろうという予感が、義時が手渡された観音様を握りしめる時の、なにかが潰れるような音がした演出から感じられました。前回のコラムでも触れたように、政子と義時の姉弟は、“頼家とその子を鎌倉殿の正統の血筋とする”という頼朝の遺志に背いていくわけですから、義時の苦悩は深まる一方であろうとも思われます。
二代目鎌倉殿たる頼家は、「頼朝様と違って気性が荒く、頼朝様に似て女子癖が悪い。いずれ必ずボロを出します」などとりくから厳しい評価を受けていましたが、次回はそんな頼家のもとに幕府の有力者13人による合議制が提案されることになるようです。過去の大河の例では、このように新しい局面となると視聴率の低下が見られがちでしたが、『鎌倉殿』は乗り切ることができるでしょうか。われわれは引き続き動向を見守っていきましょう。
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