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『鎌倉殿』ついに“序章”終了――頼朝の死と、後家・北条政子の「尼将軍」の始まり

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

『鎌倉殿』ついに“序章”終了――頼朝の死と、後家・北条政子の「尼将軍」の始まりの画像1
小池栄子演じる北条政子|ドラマ公式サイトより

 『鎌倉殿の13人』第26回「悲しむ前に」では頼朝(大泉洋さん)がついに亡くなりました。しかし、実質的には北条政子(小池栄子さん)にスポットライトを当てたような内容でしたね。

 頼朝が奇跡の回復を見せてくれると信じ、必死の看病に努める政子に対し、北条義時(小栗旬さん)がつらそうに「(頼朝は落馬の日から)これまで何もお口に入れてはおられません」と言った時、改めて気づかされましたが、20世紀になるまでは寝たきりになった人の平均余命は数カ月程度とかなり短く、特に頼朝のように意識がない状態が続くと、本当に何日かのうちに亡くなってしまうものなのです。政子は頼朝の唇を濡らしてやっていましたが、点滴がない当時、栄養どころか水分もろくに体内に入れることができません。

 それでも、頼朝にもう一度目を開けてほしい政子は、最初に彼と会った時に差し出した桑と茱萸(グミ)の実を頼朝の枕元に置いてみることにしました。その甲斐あってか、頼朝は目を覚まし、縁側で「これは……何ですか?」と、桑の実を手に、初めて会った時と同じ問いかけを政子にしたのでした。このシーンは、直前までウトウトしていた政子の夢の中の出来事かと思わせられる、どことなく非現実的な空気が漂う演出になっていました。しかし、人を呼びに出て部屋に戻ると頼朝はもう倒れ、事切れてしまっており、政子の喜びの涙は一転、悲しみの大粒の涙に変わってこぼれ落ちていったのです。この場面の小池さんの演技はさすがでした。

 史実では、頼朝が亡くなったのは建久10年(1199年)のお正月くらいの話なので、初夏の風物詩のような桑と茱萸を入手することは当時では絶対に不可能なのですが、三谷氏いわく「第1回と季節が全然違うので、季節考証的には同じ料理は出せないのですが、そこは物語としての面白さを優先していただくことになりました」とのことです(「『鎌倉殿の13人』頼朝墜つ“最期の言葉”は政子への初回の“あの台詞”三谷幸喜氏が明かす作劇」/スポニチより)。

 筆者も桑の実を食べたことはないのですが、茱萸は家の庭で2種類育てており、味も知っています。桜の頃に花を開かせて実を結び、完熟させると甘いのに苦いという独特の味がする果物です。しかし香りはほとんどないので、意識を失った人への嗅覚的な刺激となるかは微妙なところですが、最後の手段として政子は思い出に頼ろうとしたのでしょう。

 桑と茱萸の実を乗せた器を手に、頼朝のところへ向かおうとする政子に、妹の実衣(宮澤エマさん)が声をかけたシーンも心に残りました。「初めてあの方にお会いした時、お出ししたの」と果物を見せる政子に、一瞬だけ間を置いて「食べてくれるの?」と感情を抑えながら問いかけた実衣の演技、とてもよかったですね。姉を傷つけまいという気持ちが実衣には強くありますが、彼女にとって頼朝は瀕死の義兄にすぎません。

 北条時政(坂東彌十郎さん)は妻のりく(宮沢りえさん)に「比企に全てを持っていかれてもよいのですか」「この鎌倉はあなたがおつくりになられたのです」とたきつけられ、頼朝の弟で義理の息子である全成(新納慎也さん)を次の鎌倉殿に擁立しようとします。最初は戸惑っていた実衣も、父・時政に「全成殿が跡を継いでくれれば、お前は御台所じゃ」と言われ、すっかりその気になっていましたし、それこそが北条家が鎌倉で有利に生き残っていくための条件だと信じているのですが、頼朝のことしか考えられない政子には実衣からの“提案”が気に障ってしまいます。「全成殿は次の鎌倉殿になる覚悟をお決めになられました」「その時は私も御台所となって鎌倉殿をお支えしていくつもりです」という実衣に対し、政子は身内に裏切られたといわんがばかりの表情を見せ、「あなたに御台所が務まるものですか!」「あなたには無理です」と言い放つのでした。

 政子の気持ちもよくわかるのですが、実衣もかわいそうでした。政子の言動は、姉の陰に隠れて生きざるを得なかった実衣の心を思った以上に深く傷つけてしまいます。この場面の演技の応酬、政子演じる小池栄子さんと、実衣演じる宮澤エマさんが感情をぶつけ合い、役としてその瞬間を生きているのが伝わってきて見応えがありました。

 文字数の都合で、宮澤さん演じる実衣についてはあまり触れてきませんでしたが、女優は役によって別人みたいに変わるなぁ、といつも思わせられてきました。筆者が宮澤さんの演技を初めて見たのは連続テレビ小説の『おちょやん』で、ヒロイン・千代の“毒義母”をふてぶてしく演じる姿が印象的でしたが、『鎌倉殿』では、妹の実衣の自由奔放さと、姉へコンプレックスを巧みに演じておられ、感心しながら拝見しています。(1/2 P2はこちら

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