磯村勇斗初主演映画『ビリーバーズ』 カルト宗教を題材にした社会派エロス!
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おかしなローカルルールを強いられた密室社会の行く末
漫画家・山本直樹が『ビリーバーズ』を「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)に連載したのは1999年。地下鉄サリン事件で世界中を震撼させた、オウム真理教をモデルにした問題作だった。オウム真理教の教祖・麻原彰晃が考えた稚拙な世界終末論を、有名大学を卒業した若者たちが信じていたことに、世間は驚いた。だが、信仰内容はシンプルなほど共感を集めやすい。そして、高学歴者ほど自分を認め、受け入れてくれる存在を求めている。
劇中のオペレーターと議長も、「ニコニコ人生センター」の教祖である「先生」を崇拝している。副議長は暴力夫から救ってくれた第三本部長(毎熊克哉)に信頼を寄せていた。彼らにとって、「ニコニコ人生センター」はかけがえのない居場所だった。「先生」の教えは、どれも陳腐でうさん臭いものばかりだが、信者たちの信仰心の強さによって唯一無二の教義として成立していた。
3人は夢の内容について、日々語り合う。この「夢記憶プログラム」を続けることで、夢の内容を細かく記憶することが可能となる。嫌な悪夢は自分の意思で強制終了でき、夢そのものをコントロールすることさえ可能になっていく。宗教ごっこのようだった単調な生活に、シンプルなルールに基づいた奇妙なリアリティーがもたらされるようになる。
端から見ていると、おかしなローカルルールを強いられた滑稽な密室社会にしか映らないが、本人たちは真剣である。体調を崩し、あの世とこの世との境界をさまよった議長は、もはや狂人すれすれの危うい存在だった。だが、議長本人は魂のステージが上がったと主張する。従順な性格のオペレーターも、都合の悪い夢を強制終了できるようになるが、同時に副作用も生じ始める。夢のことをずっと考えるあまり、夢と現実が意識の中で混在するようになってしまう。
やがて3人きりだった島の生活に、外部からの人間が闖入する事態に。不穏な雰囲気がどんどん膨らみ、物語は後戻りできないクライマックスへと雪崩れ込んでいく。
本作は、オウム真理教をモデルにしただけでなく、1978年に南米ガイアナで起きた「人民寺院集団自死事件」を連想させる衝撃的な展開が待っている。「人民寺院集団自死事件」では900名以上の信者たちが、教祖ジム・ジョーンズに促され、シアン化合物入りのドリンクを一斉に飲み、命を落としている。飲むことを拒否した信者は、銃を向けられて強要されたとも言われている。
本作では『ビリーバーズ』という物語を生み出した創造主・山本直樹が「先生」として降臨し、無人島に集まった全信者たちに「安住の地へ向かおう」と呼びかける。この惨劇に、オペレーターも副議長も巻き込まれてしまう。
これまでは低予算のピンク映画やビデオ映画を主戦場に、映像職人としてキャリアを磨いてきた城定監督だが、念願だった山本直樹の問題作の映画化だけに、いつも以上に力の入ったクライマックスとなった。静かに狂っていく離島での日常生活をコミカルに描いた前半から一転し、物語後半はエキストラを動員した狂乱シーンが繰り広げられる。曽我部恵一が手掛けた「ニコニコ人生センター」のテーマ曲も耳に残る。(2/3 P3はこちら)
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