『キャメラを止めるな!』は「原作と違うからダメ」を一蹴する
#映画 #稲田豊史 #さよならシネマ
日仏の若手女優は「目薬」を……
当然ながら、一口にリメイクと言っても玉石混交だ。「改悪」は確固として存在する。ほんの少しセリフや展開を変えただけで、オリジナルの勘所が台無しになってしまった作品は過去、枚挙にいとまがない。
ところで、『キャメ止め』の細かい改変の中で一点だけ、「ほほう、そう変えるか」と唸らせるものがあった。
劇中劇『ONE CUT OF THE DEAD』でヒロインを演じるのは、若手女優のアヴァ(マチルダ・ルッツ)。彼女は当初、泣き演技のために目薬を使わせてほしいとプロデューサーに要求し承諾を得ていた。が、撮影当日のトラブルにより急遽劇中劇で演者をやらざるをえなくなってしまった監督・レミーの鬼気迫る説教(の演技)によって、自然と涙がこぼれてしまう。自分の演技のダメさ加減を完膚なきまでにダメ出しされたからだ。ここまでは『カメ止め』と同じ。
ところが、この後が違う。『カメ止め』でアヴァと同じ役柄に当たる若手女優・逢花(秋山ゆずき)は、スタッフから差し出された目薬を、既に涙があふれている目に重ねてさす。しかしアヴァはスタッフからの目薬を「いらない」と言って断るのだ。
筆者は『カメ止め』の初見時、逢花が目薬をさしたのを「意外」だと感じた。既に涙が出ているのだから、「期せずして本物の涙が出てしまったので、使おうと思っていた目薬を使う必要がなくなった」ほうが“自然”ではないかと。そう考えると、『キャメ止め』のアヴァのふるまいのほうが“自然”だ。
ただ、こうも思った。アヴァのふるまいは、脚本上、物語上、作劇上“自然”なのであって、女優の胸の内からすると、逢花の「目薬をさす」のほうが“自然”なのかもしれない、と。なぜなら、逢花はカメラが回っている前でプライドをメタメタに破壊された。ショックだし、悔しい。だから最低限の抵抗として、せめて「目薬を使う」と宣言した自分を貫きたかったのかもしれない。女優として最低限のプライドだ。
日本とフランス、どちらの演出が正解ということはない。アザナヴィシウス監督の言うように、「多くのことを敢えて言葉にしない」のが日本文化で、「変化した状況を説明せずに放置することに、フラストレーションを感じてしまう」のがフランスだというなら、「女優の気持ちを推し量る」という一手間を観客に委ねることで成立する『カメ止め』と、説明なしでも伝わる物語としての“自然”さを追求した『キャメ止め』は、違っていて当然だ。
繰り返すが、リメイクも玉石混交だ。しかしある種の寛容さをもってリメイクを観ることで、オリジナルに新たな発見や視点を見出すことも、また可能だ。「原作と違うからダメ」一辺倒では、あまりに多くのものをとりこぼす。
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7月15日(金)全国公開
配給:ギャガ
監督・脚本:ミシェル・アザナヴィシウス 音楽:アレクサンドル・デスプラ 衣装:ヴィルジニー・モンテル 出演:ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョ、
グレゴリー・ガドゥボワ、フィネガン・オールドフィールド、マチルダ・ルッツ、竹原芳子 提供:ギャガ、ENBUゼミナール 配給:ギャガ
シネスコ/5.1ch デジタル/112 分/字幕翻訳:松崎広幸公式 HP:gaga.ne.jp/cametome
twitter:@finalcut2207
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