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連載「クリティカル・クリティーク VOL.5」

新世代フィメールラッパー・7、苦しい環境へ怒りをぶちまけながらも楽園へ誘う

煮沸しまくった世界観をラップにする素晴らしい作詞力

 ところが、7の興味深い才能は、その素晴らしい作詞スキルで死の淵ギリギリにいる私たちを楽園へと誘うマジックを見せる。

 例えば、Elle Teresaを思わせるたどたどしいラップを爽やかに披露する「tapple」は出色の出来だ。「iPhoneをTAPしよう」と宣言されるこの曲は、「よくある話はスクロール/未来に繋がるアカウント/101せまい街広げるmemory」というリリックによって、マッチングアプリである「tapple」を題材にアプリを飛び出して夢へと突き進んでいく情景が描かれる。「夢とマッチング」するという、そのロマンティックな展開に泣く。

 憎いくらいに技巧も凝らされている。タイトルの「tapple」や、幾度となく繰り返されるフックの「iPhoneをTAPしよう」を受けて、7は「今日は何しよう/酒で顔がリンゴ」と歌い、この曲のテーマが(iPhoneとTAPとリンゴを受け)〈Apple〉であることを示唆する。執拗に反復される「a」の頭韻――アカウント/アイテム/アツすぎる夏/あが――。そう、「SEVEN ELEVEN-freestyle」で明かされる通り、「7の色とiPhoneはApple」なのだ。

「7色の小さな世界」では「閉じない朝まで赤いeye/麻とバニラ溶けてる味」「7はアホやから夢しか考えれない」と、ここでもまた「a」が繰り返される。眼前に、舌先に、拡散していくApple=リンゴのメタファー。そして、私たちの視界に広がる真っ赤な世界を、「7色の小さな世界」というファンタジックに反転させたタイトルで括り、自らのMCネームとのダブルミーニングを果たしていく芸当。7色のカラフルな「7Land」にはマリファナだけでなくリンゴも実っており、ほかにもたくさんの豊かな色彩が生い茂っている。この荒れ果てた日常の中で、「7Land」こそが楽園として光り輝いているのだ。

 若者を取り囲む環境は厳しい。現実世界はおおよそ狂っている。しかし、7は日常の世俗的な風景を綴りながら、怒りをぶちまけながらも私たちを楽園=7Landへと誘う。「罰ゲーム」の、「笑いあえるって凄く幸せな事/それを君から教えて貰ったんだよ」という素朴で牧歌的なリリック。鬱屈としたリアルに押しつぶされそうになりながらも描かれる、マリファナとリンゴ。目の前いっぱいに拡がる色彩、ファンタジー。まっすぐな、ことば。まっすぐな、音楽。それは、7色の小さな世界。夢に溢れ、沸騰した世界。

つやちゃん(文筆家/ライター)

文筆家/ライター。ヒップホップやラップミュージックを中心に、さまざまなカルチャーにまつわる論考を執筆。雑誌やウェブメディアへの寄稿をはじめ、アーティストのインタビューも多数。初の著書『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)が1月28日に発売されたばかり。

Twitter:@shadow0918

つやちゃん

最終更新:2022/07/05 21:00
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