映画『エルヴィス』てんこ盛りな豪華さでより悲劇を際立たせたバズ・ラーマン
2022/07/02 08:00
#ヒナタカ
保守的な価値観による誹謗中傷と、「殺される」ことも示される物語
バズ・ラーマン監督らしい、ゴージャスな演出も大きな見所だ。エルヴィスが売れに売れていく様は、細かいカット割と煌びやかな装飾も持って示されているので、見た目にも楽しい。1960年代から70年代当時の室内や小道具などの美術もこだわり抜かれており、エルヴィスが世界を熱狂に巻き込んでいく過程と合わせて、まるであの頃のアメリカにタイムスリップしたような感覚も得られるようになっている。
だが、その華やかさと煌びやかさの「裏」にはどこか切なさや焦燥感も感じられる。その理由の筆頭が、エルヴィスが熱狂的な支持を集める一方で、腰を振るパフォーマンスが下品であると酷評されたり、人種差別が激しい当時にブラックカルチャーを取り入れたことも非難を浴び、さらにはマネージャーのトムからも「エルヴィスらしさの封印」も命じられるなど、当時の保守的な風潮が彼を貶める様が深刻に描かれていることだ。
さらには、エルヴィスが若くして死を遂げるという絶対的な事実、そして「誰が彼を殺したのか?」という疑問が序盤から提示されている。劇中ではジョン・F・ケネディ大統領の暗殺事件や、女優シャロン・テートの殺人事件といった、当時の衝撃的なニュースも報道されており、やがてエルヴィスも彼ら彼女らのように「殺される」ことも暗に、しかし残酷なまでに示されているのだ。
その「誰が彼を殺したのか?」という疑問の答えは、ぜひ実際の本編を観て確認してほしい。その答えに合わせて、強欲なマネージャーとの愛憎入り混じる関係や、世界一の人気を得ても決して幸福とは言えないエルヴィスの姿を鑑みると、さらに良い意味で切なくなってしまうだろう。
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