ツイッターでバズっても良い歌とは限らない 岡本真帆『水上バス浅草行き』ヒットと短歌ブームの裏側
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文芸単行本の初版2000部も当たり前になった一方で、本を出すには書き手の出版費用負担が半ば前提のことが多く、専業の人間がほぼいない(つまり小説よりもマーケットが小さい)短歌では近年、重版を重ねて1万部以上に達する歌集が続々出ているという。
2018年に「ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし」という短歌がツイッター上で5万いいね以上ついた、「まほぴ」こと岡本真帆の第一歌集『水上バス浅草行き』も、22年3月の発売からわずか3か月で1万部に到達。出版社は、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の「本屋で読書芸人」で木下龍也『天才による凡人のための短歌教室』が取り上げられて大きな反響を呼んだナナロク社。
岡本氏とナナロク社代表・村井光男氏に、短歌隆盛と『水上バス』制作の背景について訊いた。
アンケートハガキの返りは100枚以上
――短歌が盛り上がり、注目されている背景には、短文の芸術であることがSNSと相性がよく、読者からの反応が可視化されたことがあるのかなと思ったのですが、実際、活発なんですよね?
岡本 ツイッターで「#tanka」で検索してもらえるとわかりますが、短歌を発表している方はたくさんいます。大きく言うと、必ずしもSNS上で短歌は発表しないけれども短歌結社や学生短歌会に所属していてリアルな短歌のつながりの場がある方と、ネットの投稿サイトや新聞などの歌壇欄に投稿されていてSNSにも発表している方に分かれるのかなと。
村井 今はSNSに短歌を投稿するのは当たり前という感覚になってきていますね。そういったネットを中心に作品発表をする歌人の書籍化も、書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)さんが新人の第一歌集を刊行している「新鋭短歌シリーズ」などですでに一般的になっています。
――小説だと「ウェブで人気のものを本にする(と売れる確率が高い)」が始まって20年くらい経ちますが、短歌もそうなってきていると。
村井 ただ、僕は岡本さんに「ツイッターがバズってるのを見て声をかけた」わけではないんですね。ナナロク社が歌集を出し始めたのは2018年からで、20年頃には「新人の第一歌集を3年で7人出そう」と決めました。そのとき岡本さんから第一歌集の相談があったんですね。岡本さんの存在はツイッター経由で知っていて、いくつか好きな歌もあり、弊社主催のイベントにゲストで来ていただいたりといった縁もあったので、「時間をかけて作りましょう」と。SNS上でも話題になっていることは、どちらかというと後から自分の決断に「間違ってないよな」と確信を深めていく段階で重要でした。
――『水上バス浅草行き』にはアンケートハガキも入っていますが、読者は何歳くらいの方が多いですか?
岡本 私が見ていると10代から30代が多い印象です。アンケート自体には年齢を書く項目はないんですよ。でも、「本を手にとってくださったあなたはどのような方ですか。」という質問はあるので、そこに「春から大学院生です」「社会人です」と書いてあったりするから、だいたいわかる。もちろん40代、50代だろうなという方もいらっしゃいます。
――ナナロク社から刊行されているほかの短歌の本の読者層とも近いですか?
村井 ほかの本も20代から40代が中心ですが、『水上バス』のほうが学生さんが少し多い印象はあります。『水上バス』がすごいのは、ハガキに切手を貼って送ってもらっているのに、すでに返りが優に100枚は超えていることです。
岡本 ナナロク社さんの設問が絶妙なんですよね。ほかの質問も「お住まいはだいたいどのあたりでしょうか。町の名前がお好きですか。」だったりして、自分だったらどう答えるかなと考えたくなるものなので。それもあって感想をいただくのかなと。
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