ツイッターでバズっても良い歌とは限らない 岡本真帆『水上バス浅草行き』ヒットと短歌ブームの裏側
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マンガのフォントと映画のカメラワーク
――『水上バス』の感想をネットで見ていたら、フォントがマンガと同じアンチゴシック(漢字がゴシック、ひらがなが明朝)で、判型もコミックスと近いという指摘がありました。マンガを意識している?
村井 『水上バス』は上製本(ハードカバー)ですが、サイズはジャンプコミックスなどと同じ大きさにしています。コミックスの大きさのほどよさ、親しみやすさを裏テーマにしていました。『ドラえもん』などを刊行している小学館のてんとう虫コミックスをデザイナーと共有して、「この感覚で色を使っていきましょう」と。また、書体も歌集としてはほぼないと思いますが、みんなが小さい頃から読んでいて親しみのあるマンガと同じ書体でやっています。岡本さんの歌はそういうギミックに埋没しない強さがあると踏んでの思い切った判断だったのですが、岡本さんはさすがというか、一切否定しないで「いいですね」と。
岡本 何も考えてないわけじゃないですよ?(笑) 本当にいいと思ったので。
――岡本さんはコルクでマンガのPRのお仕事をされているそうですが、マンガからの影響はありますか?
岡本 直接的にはない気がします。マンガも大好きですが、どちらかというと映画を観ることのほうが多いですね。
――確かに岡本さんの短歌は視覚的ですよね。「回想の電車の中でねむるときだけ行き着けるみずうみがある」とか「逆光の人たちみんな穏やかに頬の産毛を光らせて、秋」とか。
岡本 カメラワークは意識しているかもしれません。ミクロからマクロへとか、マクロからミクロへ、とか。あとは、『水上バス』では本文より前の見返しの遊びの部分から短歌が始まり、本文が終わった後にまた一首だけ出てくるという構成が、タイトルが出てくる前にエピソードが始まってエンドロールの後にワンシーンある、みたいな映画のようで気に入っています。
ただ、マンガや映画に限らず、あらゆるコンテンツに影響を受けているとは思っています。エンタメはインフラほど生きていく上でなくてはいけないものではないけれども、生活に欠かせないものだと思って仕事をしていて、そういう気持ちはこの歌集にも入っています。それが、あとがきに書いた「一見無駄のように思える、なくても生きていけるもの。そういう存在が、私を生かしてくれていることを知っている」という言葉にもつながっています。
――地元の高知に引っ越しされたそうですね。
岡本 コルクの代表の佐渡島(庸平)と『水上バス』ができたときに話していたら、「高知に移住したらいいんじゃない? 環境が創作に与える影響って大きいと思う。自然豊かなところでのびのび創作するのもいいんじゃないかな」と言われまして。「いやいや、移住しないですよ。だってかなりの僻地ですよ?」とかって最初は返したんですけど、あとで「いや、アリだな」と思い直しまして。
歌集を出して私の中で区切り付いた感があり、環境を変えてみるのもいいかもしれないと思ったこともありますし、歌集を家族が喜んでくれたこともあって「近くで暮らしたいな」と。だから、気分ですね。「やれるときにやっとこう」と。勢いで来ました。
――新作ももう作り始めている?
岡本 5月は取材や引っ越し準備で慌ただしくて心を完全になくしていたんですが(笑)、6月の初旬に高知に来て荷ほどきもなんとなく終わり、最近は日中に仕事をして朝と夜に創作しています。午前6時に起きて7時半から短歌を作る、みたいなサイクルができてきて、調子がいいですね。環境が変わったことで自分が思うことがどんなふうに変化したのかを歌にしたいですし、『水上バス』で取り扱わなかったテーマにも取り組んでみたいなと。いずれ第二歌集も出せるように、いろんな歌を自由に作っていきたいです。
岡本真帆(おかもと・まほ)
1989年生まれ。高知県、四万十川のほとりで育つ。未来短歌会「陸から海へ」出身。Twitter<@mhpokmt>
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