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映画『ゆるキャン△』シリーズから数年後。社会人になったって、ゆるい視点は大切だ

ゆるくても自分のペースで歩いていけばいい。そのテイストは社会人にも通用する

『ゆるキャン△』シリーズの主要キャラクター名には、東海地方の地名が使用されていることもあって、東海地区では漫画やアニメを見たことがない人でも認知されている作品だ。なにより筆者も、このレビュー原稿を書くためにシリーズを全作品を観るまでは、そこまで内容は知らなかったものの、タイトルやビジュアルだけは知っていた。

映画『ゆるキャン△』シリーズから数年後。社会人になったって、ゆるい視点は大切だの画像2
©あfろ・芳文社/野外活動委員会

 山梨をメインの舞台として、その付近のキャンプ場や観光施設を訪れる観光促進PRにもなっており、最近では山梨付近のパーキングエリアや、県内ならコンビニでも『ゆるキャン△』のコラボ商品が多く置かれているほどだ。山梨に住んでいる方は共感できる部分が多いし、山梨を訪れたことがない方も楽しめる。

 なにより、実在する土地の名前を使用していることから、間違いがあってはいけない。徹底的にリサーチを重ねた結果が、ロケーションにリアリティを与えているのだ。

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©あfろ・芳文社/野外活動委員会
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©あfろ・芳文社/野外活動委員会

 繊細な人物描写のアニメを見ていながら、自然にアウトドアの知識が身に付くという、一石二鳥な作品でもある。映画版では、放置されていた廃墟のような施設を再開発して、自分たちでキャンプ場を作ろうとするモノ作り要素も加わるのも見所のひとつだ。

『ゆるキャン△』を追ってきた者としては、映画のオリジナル要素に期待する一方で、登場人物たちが社会人になった姿が描かれることには不安もあった。それは、『ゆるキャン△』なのにゆるくなくなってしまうのではないか……というものだ。しかし、そこはうまく描かれている。

映画『ゆるキャン△』シリーズから数年後。社会人になったって、ゆるい視点は大切だの画像5
©あfろ・芳文社/野外活動委員会

 これまでのシリーズで、終わりゆく学生時代の将来への期待と不安などを織り交ぜてきたとすると、映画で描かれたのは、大人になったことを実感する“分岐点”に立ったときに見える未来への期待と不安、といったところだろうか。それぞれが抱えている問題が変化するだけであって、ゆるく解釈していくテイストは同じだ。

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©あfろ・芳文社/野外活動委員会

 それを説教臭くなく、自然なかたちで描くのが、このシリーズのいいところ。ほのぼのとしたタッチの絵柄のキャラクターが、たまに人生論を語るような深いセリフがあったりと、そのギャップがまた魅力といえるだろう。
 
 しいて言うなら、キャラクターが多いのに、誰一人として恋愛事情が描かれないのは気になるところだった。作品自体がもともとは、どちらかというと女性よりも男性をターゲットとしているため、色恋はふさわしくないというのも理解できる。もちろん、別に無理して描く必要性もないのだが、人間描写も繊細に描かれている作品がゆえに、成長の過程のひとつとして盛り込まれてもよかったかもしれない。

 一方、恋愛要素が排除されていることもあって、これは本作の重要なテーマではないかもしれないが、社会に出たばかりの若い女性たちの連帯(=シスターフッド)が強く描かれているように見え、フェミニズムの要素も感じられた。

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©あfろ・芳文社/野外活動委員会

 作品としては独立したものとして、「ゆるキャン△」の知識がまったくなくても、ある程度は楽しめるようになっている。アニメ版のシーズン2から数年の間隔を空けることで、シーズン3以降も描ける余地を残していながら、回想シーンなどは極端に控えられており、無理にシリーズとの距離感を詰めようとはしていない。ただ、キャラクターの成長が作品の鍵になっていることから、アニメシリーズもしくはドラマシリーズのどちらかだけでも観ておいた方が、作品の奥行は確実に増すだろう。

映画『ゆるキャン△』
原作:あfろ(芳文社「COMIC FUZ」掲載)
出演:花守ゆみり(各務原なでしこ))、東山奈央(志摩リン)、 原紗友里(大垣千明)、豊崎愛生(犬山あおい)、 高橋李依(⻫藤恵那)
監督:京極義昭
脚本:田中 仁・伊藤睦美
キャラクターデザイン:佐々木睦美
配給:松竹 アニメーション
制作:C-Station ©あfろ・芳文社/野外活動委員会
公式HP:https://yurucamp.jp/ 
公式Twitter:<@yurucamp_anime

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

Buffys Movie & Money!

ばふぃーよしかわ

最終更新:2022/07/11 16:24
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