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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 「女性は大喜利が苦手」という“実験台”

IPPON女子グランプリ「女性は大喜利が苦手なのか」 “実験台”に乗せられたのは誰か?

 今回も面白かった『まっちゃんねる』。一方で、違和感を覚えるシーンがあったのも確かだ。

 番組によると、これまでの『IPPONグランプリ』の出場者は延べ270人らしい(「延べ」なので、実質はもっと少ないはずだ)。そのうち女性は7人しかいない。渡辺江里子(阿佐ヶ谷姉妹)、大久保佳代子(オアシズ)、伊藤修子、近藤春菜(ハリセンボン)、箕輪はるか(同前)、椿鬼奴、友近である。最終決戦の出場者はいない。そんな数字を示したうえで、番組はナレーションとテロップで次のように問いかける。

「はたして女性は大喜利が苦手なのか」

 女性の出場者が少なく、決勝に進む者もいない。これは女性が大喜利を苦手としているからではないかという問いだが、なんか変だ。

『IPPONグランプリ』は、2009年に第1回が放送されてから、しばらくは女性の回答者がしばしば見られた。しかし、2014年の第12回を最後に、近年はまったく出場していない。なお、大久保と伊藤が同時に出場した第12回以外は、各大会に女性は1人だけ。いわゆる“紅一点”的な出場となっている。同じブロックに女性が2人いたことはない。そういう意味で、男女比には”バランス”が図られている。

 男性に比べて女性の芸人の数がそもそも少ないから、女性の出場者はどうしても少なくなる、というのは確かだろう。だが、近年は女性の芸人の数が増えている。テレビでその姿を見る機会は確実に増えた。にもかかわらず、近年になるほど女性の出場者が減っているというアンバランスがここには見られる。単に数の少なさだけではない。

 女性が上がりやすいお笑いの場と、上がりにくいお笑いの場があるのだろうか。“純粋なお笑い力”や“お笑いの知的筋力”のようなものを競う大喜利の場は、女性の芸人の出場機会が相対的に少ない、ということなのかもしれない。「IPPON女子グランプリ」の冒頭、今回の企画は期待が大きい一方で、番組として成立するか不安もある、といった松本の発言を受けるようにして、川島明(麒麟)が、「あまりにもな場合も、あるかもじゃないですか。こればっかりは初めてのことなんで。そういうときはカメラ止めてすぐ、スイーツなんか入れてあげて。恋愛トークとかのほうがいいかもしれないですね」と言っていたけれど、こういう発言を聞くと(そしてそれが編集を通って放送されてしまうところを見ると)、そういった懸念が強まってしまう。

 もちろん、少ないのは女性芸人だけではない。男性芸人も含めて、初出場の芸人が少ない。『IPPONグランプリ』は固定した出場者が多く、常連組に加えて新たなプレイヤーは毎回1~3人。初出場がいない回もある。新たな芸人が数少ない枠に入り込むのは、男女かかわらずそもそも難しい状況になっている。

 いずれにせよ、出場者は番組側が選んできた。その結果として、女性の出場者がこれまで少なかった。女性の出場者が少ないのだから、最終決戦に残る可能性も当然少なくなる。大会の審査の性質上、審査員に男性芸人が多いことも男性に有利に働きかねない。漫画などのカルチャーを取り入れた笑いに典型的だが、男性にウケやすい回答に点数が入りやすい、という形で。

 女性が出場者に少ないのも、決勝進出者に少ないのも、番組側の状況設定によるところが少なくない。にもかかわらず、番組側が「はたして女性は大喜利が苦手なのか」と問いかけるのは、変だ。

 そもそも、女性が大喜利を苦手にしてきた事実など、これまでどこにあったのだろう。大喜利ライブや、テレビであれば『千原ジュニアの座王』(関西テレビ)などを見たことがある人には、自明なことだろう。これは、ない問いである。ない問いを掲げて、番組の最後にまとめのように「大喜利に男女の差はまったくないなと思った」と出演者に語らせる。答えが明らかになったかのように見せる。答えもなにも、問いがないのに。変だ。

 答えの正しさは、問いの正しさを保証するものではない。答えの正しさで、問いの正しさを既成事実化してはいけない。

 テレビ番組は視聴者の反応を見てつくられる、とされる。女性の芸人が『IPPONグランプリ』にこれまでほとんど出場してこなかったのは、視聴者に受け皿がない、ということを意味しているのかもしれない。仮にそうだとしても、今回の「IPPON女子グランプリ」は、前半の女性芸人のパートも含めて、面白かったという反応が多いように思う。そういう意味では、今回の企画は意義が大きかったのだろう。

『まっちゃんねる』は「実験的お笑い番組」を謳っている。今回、実験台の上に乗せられたのは女性芸人のように見えるが、それだけではない。審査員を務めた男性芸人も、番組の製作者も、そして視聴者も、その実験台の上には乗っている。はたしてその実験結果はどうなったのか。ひとまず、次回の『IPPONグランプリ』に期待せざるをえない。

 もちろん、今回の企画がとても面白かったという実験結果は、揺るぎないものだとして。

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2023/02/27 19:07
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