山下達郎インタビュー回が『関ジャム』史上最高。なぜ、彼は「売れよう」と思ったのか?
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日本のヒットソングが“歌詞偏重”な理由と、山下のビートへのこだわり
シンガーソングライターのさかいゆうは、「作曲はどのように行っていますか? ギター? ピアノ? メロディー先行の曲も?」という質問を山下に飛ばした。
「『FOR YOU』の場合は、トラックとしてのグルーヴを最優先で作っている時代なんで。メロディーに合わせるアレンジと、トラックを作ってからメロディーを決めるのとでは、グルーヴが全然変わるんですね。もともとは洋楽、英語の乗るメロディーに影響を受けてメロディーを作ってるから、どうしても日本語が乗りにくいんですよ。(中略)そういうのをどう克服していくかっていうのはみんな各々のやり方でやっていて、一番顕著なのが歌い方。僕らの世代の人たちはみんな特殊な歌い方をするんですよ。例えば、僕は『アイウエオ』がほとんど『ハヒフヘホ』になっちゃうし。あと、例えば矢沢永吉さんとか忌野清志郎さんとか桑田佳祐さんとか、みんな特徴的な歌い方するのは、メロディーに日本語が乗りにくいことを歌唱法で克服した結果の発音なんです」(山下)
筆者の世代は“桑田以後”の時代で育ったため「日本語が歌いにくい」とイメージを持ったことはない。でも、当時のロック歌手はみんなそのことを考えていた。この格闘は山下より下の世代にも残り、例えば山下が「ハヒフヘホ」なら氷室京介は「ツァツィツゥツェツォ」である。あと、現在もヒップホップのフィールドでは、ワールドワイドなリズムに日本語を乗せる戦いをラッパーは続けている気がする。
「日本の場合、とにかく歌っていうのはまず『言葉』。それはなぜか? 国語教育だから。日本人は国語教育を小中高で徹底的にやられますでしょ。(中略)日本の場合は言葉は誰でも評価できるから、音楽の70%は詞なんです。ここをまず認識しないと。日本のヒットソングとかポップミュージックとかに関しても、『この詞はいいね』っていうのは『この曲はいいね』と同義なんです。曲のほうにあんまり重点が置かれすぎると、『この曲は難しい』とか。(中略)そんなに詞が大事なら詩人になりゃいい」(山下)
演歌が“日本のこころ”と言われるのは、このあたりに理由があるのでは? 歌の物語性について語る人はいても、演歌のサウンドを語る人はあまり見たことがない。
そして、最近の歌詞偏重な流れと彼が対極にいることもわかる。山下の考えに筆者も同意する。音楽とは、歌詞ではなくグルーヴとメロディーである。CDを買うと国内アーティストには必ず歌詞カードが付いているが、輸入盤は何もなかったりする。歌詞も所詮、サウンドの一部ということ。ピコ太郎が海外でウケたのも、そこに理由があるはずだ。そして、そんな意図は山下にはなかったと思うが、ある意味、『関ジャム』批判にもなっていたと思う。
「僕らはロックンロールだから、リズムパターンの上にメロディーを乗っけて、それが有機的に融合して、ブレンドしていないとダメなので。歌謡曲みたいな音楽ってイントロだけはカッコいいんだけど、歌になるとガクっとなるんですよ。それはやっぱり、アレンジの問題でね。メロディーの構造にアレンジが揃ってないというか。それに比して、外国の音楽って基本的にメロディーの持つビートとトラックの持つビートがキチッと融合しているわけですよ」(山下)
「イントロは良いのに……」は、まさにあるあるだ。日本ではメロディーとアレンジが分業なため、こういうことが起こる? どちらにせよ、山下達郎クラスでしか言えない毒である。腑に落ちるし、安定的にトガっていて安心する。
「日本の場合、僕がシュガー・ベイブを始めた頃は完全に16ビート至上主義で、8分音符の8ビートの音楽は一段低いと思われてて。そうなると結局、インストゥルメンタル志向になるんですよね。(中略)もう1つは、インストゥルメンタルのほうが歌よりも偉い。あなた方の世代は信じられないでしょうが。今、時代は完全にボーカル・オリエンテッドになってますけど、僕らの時代は、基本的にまずリードギターが一番偉いんです。それは、なぜか? ベンチャーズ。日本のロックンロールの夜明けは、ベンチャーズを抜きにして語れないので。
だからまず、リードギターが1番スターなんです。で、その次はサイドギターで、その次はベースで。ドラムとキーボードはちょっと違う併用なんですが。1番何もできない奴がボーカルやるんです。だから、『日本のボーカルミュージックが遅れたのはなぜか?』っていうと、『ベンチャーズからスタートしたから』って原因があるわけです。それがどういうわけか、90年代になったからボーカル、ボーカル、ボーカルになっちゃったでしょ」(山下)
もちろん、多分に山下の主観が入った歴史トークだ。しかし、かつてのギタリストの地位の高さは間違いなかった。今の若いリスナーは「ギターソロになったら曲を飛ばす」と言われているが、我々世代からするとついていけない話だ。
そして、「インストゥルメンタルのほうが偉かった」という回顧も印象的。山下がシュガー・ベイブを始めたのは73年だが、その風潮はしばらく後も残り、YMOの始動は73年から5年経過した78年である。
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