山下達郎インタビュー回が『関ジャム』史上最高。なぜ、彼は「売れよう」と思ったのか?
#音楽 #山下達郎 #関ジャム
「クリスマス・イブ」は、山下達郎版「ひとりでできるもん!」
コーラス/ボイストレーナーの今井マサキが取り上げた「プロが厳選した超絶名曲」は、83年リリース「クリスマス・イブ」であった。言わずとしれた、大名曲。よく耳にしていた当時の気温まで思い出してしまいそうだ。番組では「もともとは妻・竹内まりやのアルバム用に作曲。使われなかったため、自身の曲としてリリース」という情報が紹介されたが、これは驚きだった。竹内版「クリスマス・イブ」も、いつか聴いてみたいと願う。
今井はこの曲の間奏部分、山下のセルフコーラスの箇所に注目、山下に質問した。「あのコーラスはレコーディングにどのくらい時間がかかりましたか?」。
「あれはねえ、8時間近くかかってますね。2時から始めて10時までやってましたから。いつも言ってるんですけど、あれ1人でやってることなんで。1人アカペラなんですよ。で、アカペラってねえ、基本的にその日1日で録りきっちゃわないとダメなんです。1人アカペラってクリック(ガイドリズム)聞きながらやるんですけど。今みたいに縦の線(他の声のズレ)、ピッチ(音程)を合わせるような時代じゃないんで、クリックを聞きながら重ねていくんですけど。(中略)例えば20回重ねるとして、10回歌って『残りは明日ね』ってするでしょ。翌日、どんなに頑張っても前の日とは合わないんです。これは人間のバイオリズムの不思議さで、絶対にその日で歌いきっちゃわないとならない。何十声やろうとその日でやっちゃわないといけないんで、それの極致が『クリスマス・イブ』の間奏」(山下)
ナレーション録りも日が変わると声も変わると言われているが、それと同じか? 人間の不思議さである。
さらに、今井は「また、具体的にいくつ声が重なっているのでしょうか?」と質問を飛ばした。
「勘定したことないけど、えっと……(鉛筆とメモを取り、小声で何声か計算している)。3でしょ、9でしょ。えっと、ここが3で9で……50声前後ですね」(山下)
50回コーラスを重ねたというのもぶっ飛んでいるし、それをどうやって思い出したのかも不思議だ。なんせ、40年前の話である。まるで学者のようだし、山下達郎は“努力の人”だったし、「彼は変態なのでは?」と思っていたらやっぱり変態だった。
――今、達郎さんに鉛筆を持ってメモをしながら思い出していただきましたけど、思い出せちゃうというか……。
「1人でやってんだもん!! ディテールが細かいところまで見えちゃうもんで。だから嫌なんですよ、自分でやるの。人に任せるとわからないから、諦めがつくじゃないですか。『グロッケン(鉄琴)がレに飛ばないでソに飛べばよかった』とか、そういうことを思っちゃうから。そうすると、どうしても夜も眠れなくなっちゃう」(山下)
凄まじい「ひとりでできるもん!」だ。職人というより、オタク。ミュージシャンはオタク気質がないとダメなのかもしれない。大滝詠一は演芸オタクだったし、吉田拓郎はアメリカンポップスオタクだし、岡村靖幸は全身オタクだ。と言うより、職人こそオタク気質が必要なのか? プロならではの質問と、それを毎度越えてくる回答にずっと痺れている。山下のような天才の話を聞き、心が折れる作曲家が出てこないか少々心配になる。
あと、あまりにも聴き過ぎたため飛ばし気味だった「クリスマス・イブ」も、当人からの秘話を聞いて改めて耳を傾けたくなった。6月11日に配信されたYahoo!ニュースインタビューで、山下は「クリスマス・イブ」についてこう発言している。
「『あれは俺のやりたかったことじゃない』と言って、ヒット曲を歌わない人って多いんですよね。ベストヒット=自分のベストソングじゃないんでしょう。お客さんはそれが聴きたくても、ライブでやってくれない。逆にマニアと呼ばれる人々はヒット曲を嫌う。でも、私は誰がなんと言おうと、『クリスマス・イブ』はやめません。夏でもやります。だって、それを聴きに来てくれるお客さんがいるんだもの」
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