『ベイビー・ブローカー』是枝監督が正真正銘の“韓国映画”を撮った、でも逆境ばかりじゃない
#映画 #韓国 #是枝裕和 #ソン・ガンホ #カン・ドンウォン #ぺ・ドゥナ
海外で求められているのは”日本らしくない”こと?
「カメレオン俳優」という言葉があるように、「カメレオン監督」という言葉があるとすれば、是枝監督が当てはまるだろう。
前作『真実』では、フランスの名女優カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュを主演に迎え、見事なまでに日本要素ゼロの、“フランス映画らしい”フランス映画を作り上げた。
そして本作も、“韓国映画らしい”韓国映画となっている。6年前の映画祭でちょうど顔を合わせた是枝、ソン・ガンホ、カン・ドンウォンらが意気投合したことがきっかけで制作が実現したという。オール韓国ロケということもあり、是枝裕和という名前を出さなければ、韓国の監督が撮ったものだと思う人もいるだろう。
もちろん、是枝作品特有の繊細さや空気感がまったくないわけではないが、かなりの薄口になっている。しかし、それはあえてそうしているのかもしれない。どの国においても、そのテイストに合った作品に仕上げてくる是枝監督はまさに“匠”といったところだ。世界に通用する仕事術は間違いなく評価できる。
ただそれは、ある問題点も浮き彫りにしているようにも感じられた。つまり、もう日本人監督に“日本らしさ”は求められていないのだ。
第94回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(2021)は、“日本映画らしさ”が評価されていたわけではなく、逆に日本映画らしくない作品だから評価されていたのではないか。どちらかというと、ヨーロッパ映画に近いテイストだったと感じる。
海外において日本のイメージというのは、いまだにサムライやヤクザ、怪獣だったりする。かと言って、そんなステレオタイプ全開の作品を作ったところで、よくてアンダーグラウンドな場で評価されるだけだろう。“フランス映画らしい”という枕詞や、ここ数年の韓国映画界の躍進によって“韓国映画らしい”という評価はポジティブに聞こえる一方で、“日本映画らしい”という言葉は、現在でも有効だろうか。
逆説的になるが、極端なことを言えば、日本は“日本らしくない”作品を連発したほうが、世界的な映画賞を獲れる可能性は高いのではないか。
もちろん、“日本らしさ”が求められない状況は、悪いこととは言い切れない。Netflixなどの配信サービスが一般化したことで、簡単に世界とリンクできる環境になりつつあるし、型にこだわらず、正統に評価してもらえる場があるということでもある。ただ、日本の映画業界における低賃金問題によって、才能あるクリエイターたちが海外に向かってしまうのは非常にもったいなく、改善されていくべきことだが。
これまで固定化された“日本らしさ”から脱却することで、新たな“日本らしさ”を構築していけるのではないか。一気に目指さなくても、少しずつ模索していけばいい。
そんなこんなで作品の感想が後付けのようになってしまったが、『ベイビー・ブローカー』が素晴らしい作品であることは強く言っておきたい。私たちが日々感じている倫理観とはいったい何かを見つめ直す、いい機会を与えてくれる作品だ。
“日本らしい”という飾りがなくても、世界で評価される作品を日本人は作れる。
それを体現して見せた是枝監督の力量は計り知れない。
『ベイビー・ブローカー』
6月24日(金)
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
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■監督・脚本・編集:是枝裕和
■出演:ソン・ガンホ カン・ドンウォン ペ・ドゥナ イ・ジウン イ・ジュヨン
■製作:CJ ENM ■制作:ZIP CINEMA ■制作協力:分福
■提供:ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro. ■配給:ギャガ
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