トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > エンタメ  > 『神は見返りを求める』“善意”の中の闇

ムロツヨシ×岸井ゆきの『神は見返りを求める』“善意”の中の闇を徹底的に抉る、身近な物語

誰もが共感なしではいられない、関係した破綻のもどかしさ

ムロツヨシ×岸井ゆきの『神は見返りを求める』善意の中の闇を徹底的に抉る、身近な物語の画像4

 本作で描かれるのは、底辺YouTuberの周りで起こる物語であるが、テーマとされているのは、YouTuberに限ったことではなく、全ての人間に共通するものだ。もつれた人間関係の修復が、いかに難しいかということを描いているのだ。

 前出のように、ムロツヨシ演じる主人公・田母神は、本当に“いい人”だ。

 そんな“いい人”を徹底的に壊すことで、人間の潜在的な欲求がどこに向かうのかを描き出そうとしている。

 否定する人もいるかもしれないが、人間というのは、どこかで見返りを求めている。それは金銭などの物的なもの(だけ)ではなくて、気持ちだけでいいという願い、つまり“感謝”を欲する生き物なのだ。

ムロツヨシ×岸井ゆきの『神は見返りを求める』善意の中の闇を徹底的に抉る、身近な物語の画像5

 例えば友人でも恋人でも家族でも、自分の時間を犠牲にして、時にはお金まで使って、相手のことを想ってやったことが、感謝どころか迷惑だと思われていたら、それは時に憎しみにまで変化してしまう可能性もある。

 ボランティアだって、助けたいという気持ちの中には、少なからず相手に感謝してもらいたいという気持ちがあるだろう。その感謝が励みになるという人もいるはずだ。

ムロツヨシ×岸井ゆきの『神は見返りを求める』善意の中の闇を徹底的に抉る、身近な物語の画像6

 純粋に感謝の気持ちだけでよかったはずなのに、それが報われない場合においては、物的な欲求に変化してしまうことも。そもそも本心ではなかった、“偽善”だったと思うかもしれないが、環境によって生じた心の変化は偽善なのだろうか……。そうは思わない。

 その時々によっては、心からの行為であったかもしれない。それを不意に発してしまった言葉で台なしにしてしまうこともある。また、一度相手に向かって口に出してしまった感情は、撤回できない。やっぱりそうだった、下心があったのだと思われ、さらに関係は悪くなる一方だ。
ムロツヨシ×岸井ゆきの『神は見返りを求める』善意の中の闇を徹底的に抉る、身近な物語の画像7

 愛と憎しみの距離感は紙一重とはよく言ったもので、互いに傷つけあい、後戻りできなくなり、軌道修正も難しい……。そして、破滅に向かってしまう。そんな様子をジワジワと見せられるのだから、こっちの心も抉られているかのようで非常につらい。田母神とユリちゃんは恋愛関係ではないので、より普遍的で身近な問題のように感じるから余計だ。

 本作を観ながら、筆者は何度「元に戻ってほしい」と思っただろうか……。

『神は見返りを求める』
6月24日(金)TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイント他 全国公開!

監督・脚本:?田恵輔
出演: ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、栁俊太郎、田村健太郎、中山求一郎、廣瀬祐樹、下川恭平、前原滉ほか
主題歌:空白ごっこ「サンクチュアリ」、挿入歌:空白ごっこ「かみさま」(ポニーキャニオン)
配給:パルコ/宣伝:FINOR/制作プロダクション:ダブ
公式サイト:kami-mikaeri.com 
Twitter:@MikaeriKami

 

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

Buffys Movie & Money!

ばふぃーよしかわ

最終更新:2022/06/27 07:00
12
ページ上部へ戻る

配給映画