世界初・ひきこもりを特徴づける血液成分を九州大学研究Gが発見
#鷲尾香一
全国に110万人以上いると見られている「ひきこもり者」は、大きな社会問題にもなっている。ところが、ひきこもりを診断評価する医学的方法はなかった。九州大学の研究チームは6月2日、世界で初めてひきこもりを特徴づける血液バイオマーカーを発見したと発表した。
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/724
政府では6カ月以上の期間を自宅にとどまり続けている状態を「ひきこもり」と定義している。内閣府は2015年の調査で15~39歳のひきこもり者を54.1万人、18年の調査で40~64歳のひきこもり者を61.3万人と推計しており、国内には少なくとも110万人以上のひきこもり者がいると見られている。
大きな社会問題となっているにもかかわらず、これまで「ひきこもり」を医学的に診断する評価方法はなかった。
九州大学病院は世界で初めて「ひきこもり研究外来」を設置しており、ひきこもりの生物・心理・社会的理解に基づく支援法開発を進めている。
発表によると、研究チームは「ひきこもり研究外来」で未服薬のひきこもり者41名と年齢・性別をマッチさせた健常者42名を対象に血液メタボローム解析を行い、ひきこもり者を特徴づけるバイオマーカーを探索した。
バイオマーカーとは、疾患の有無、病状の変化や治療の効果の指標となる項目・生体内の物質。
その結果、血しょうメタボローム解析で、ひきこもり者の血中では健常者よりオルニチンと長鎖アシルカルニチンが高く、ビリルビンとアルギニンが低いことを発見した。
血しょうメタボローム解析は主に血しょう中に含まれている様々な低分子化合物(代謝物・脂質分子)を網羅的に解析する手法。
また、男性のひきこもり者では、血清アルギナーゼが有意に高いことを発見した。さらに、血液成分と臨床検査値を加えた情報に基づいた機械学習判別モデルを作成したところ、ひきこもり者と健常者を高い精度で識別することができ、また、ひきこもり尺度の重症化予測が可能となった。
研究グループでは、「ひきこもり者を特徴づけるいくつかのバイオマーカーについては、今後、栄養療法などの予防法・支援法の開発が進むことが期待される」としている。
さらに、「ひきこもり者とうつ病患者など他の精神疾患との相違点の解明など、生物学的な理解が進むきっかけになることが考えられる」ことをあげている。
研究結果は6月1日、国際学術誌「Dialogues in Clinical Neuroscience」に掲載された。
ひきこもりは、統合失調症などの精神疾患や発達障害などによる場合と、これら疾患や障害などの生物学的な要因が原因とは考えにくく、対人関係の問題などが引き金となり、社会参加が難しくなったケースがある。
この判断は難しく、また、診療方法も違うため、今回の発見はひきこもりの解消に向けて大きな進展につながる可能性がある。
また、名古屋大学の研究チームは20年9月に、新型コロナウイルスの感染拡大防止による在宅勤務、テレワークや外出自粛などの措置により、ひきこもりが世界各地で増加する可能性があるとの研究結果を発表している。
ひきこもりを特徴づける血液バイオマーカーが発見されたことは、新型コロナによって日常生活が大きく変わり、ひきこもり増加が指摘されている中で、予防方法開発の一助になる可能性がある。
今後の研究進展に期待したい。
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