『ナワリヌイ』毒殺未遂事件を経てもユーモアを忘れないプーチン政権との戦い
#ヒナタカ #ナワリヌイ
インフルエンサーでもあり、家族から心から心配される一面も
そのナワリヌイは昏睡状態から奇跡的に回復し、自分に毒を盛ったのは一体何者なのかを探るために行動を起こす。陰謀を暴くために特別なチームを結成し、とある“裏”のルートから犯人を探す過程は、まるでスパイもののサスペンス映画のよう。現実の深刻な世界情勢からすれば不謹慎な表現かもしれないが、やはりスリリングで面白いのだ。
その他にもナワリヌイは、Tiktokの動画の投稿や、YouTubeの生配信なども積極的に行う。撮影にこだわりを見せたり、数時間で何百万回も再生され手ごたえを感じる様は、まさしく現代のインフルエンサーであり、SNSの戦略においてもカリスマな人物として映った。
ナワリヌイは妻や子どもと朗らかに話し合ったりもするが、娘からは「13歳の頃から、パパが殺されたらどうしようと思っていた」「こんな話、食卓を囲んでできるわけがないよね」と、やはり「表面的な明るさの裏に隠された深刻さ」も思い知らされる。家族がそこまでの覚悟をしなければ、強大な政権と戦えないのかと、改めて理不尽さも覚えるのだ。
「聖人化しない」意図
ダニエル・ロアー監督は、本作を手がけるに当たって「ナワリヌイを聖人化したくない」と明言している。さらに製作上において「大統領になれそうなほどの才能ある政治家特有のエネルギーを感じたが、映画のために少し落ち着いて懐疑的な目を持ち続けなければと思い直した」や「彼が私を巧みに操ろうとしていることは明らかだったので、それには気をつけるようにした」とも語っていた。
つまりダニエル監督は、特定の人物の良いところをただひたすらに肯定するような、恣意的な内容にならないように努めたのだ。それはドキュメンタリーとして真っ当なアプローチであるし、実際の映画ではナワリヌイの政治家としてのカリスマ性だけでなく、前述したような明るい面や人間臭さ、もっと言えば近所にいる気の良いおじさんのような庶民的な印象もクローズアップされているので、全くもって聖人には見えない。やはり、根底にはフラットな視点があってこその、親しみやすさのある内容なのだ。
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