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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 「親ガチャ」という格差ワード流行
ネットミームを考える

「親ガチャ」格差ワード流行の背景に“設計者”がいるという絶望

日本とアメリカの「親ガチャ」事情

「親ガチャ」が注目を集めた2021年は、日本でも人気の高い政治哲学者マイケル・サンデルの新著『実力も運のうち 能力主義は正義か?』の邦訳版(早川書房)が刊行された年でもある。

 同書で語られるのは、まさにアメリカ版「親ガチャ」の実態だ。ハーバード大学の学生の3分の2は、所得規模で上位5分の1にあたる家庭の出身であるという事実が示すように、アメリカ社会においても成功の可否は出自の影響を多大に受ける。一見、日本と似た状況に思えるが、日米の「親ガチャ」事情には大きな差異が存在する。

「実は英語でも『親ガチャ』に似た言葉があります。『ペアレント・ロッタリー(parent lottery)』がその一例ですが、ニュアンスはだいぶ異なります。日本語に訳すとペアレントは『親』、ロッタリーは『くじ引き』ですが、西洋でくじ引きというと、結果は神様の思し召しであり、だからこそどんな親のもとに生まれても、それは天命であるというような肯定的な感覚が伴います。

 一方で、『親ガチャ』はどうでしょう。ガチャという言葉はソーシャルゲームのキャラやアイテムを入手する仕組みに由来します。故にこの言葉には、何らかの意図をもった設計者が存在し、排出率があらかじめいじられているという前提が織り込まれている。『親ガチャ』に、自分ではどうすることもできないという不全感や絶望感が伴うのは、こうした言葉の意味と無関係ではないはずです」

 親がどれだけ裕福かにかかわらず、誰もが自分の努力に基づいて成功するチャンスがあるべきだという考え方を「メリトクラシー」(Meritocracy。「Merit」と「Cracy」を組み合わせた造語)と呼ぶ。「親ガチャ」はメリトクラシーが機能不全を起こしているが故に生まれた言葉だが、日米におけるメリトクラシー概念の違いに目を向けることによって、日本版「親ガチャ」をめぐる絶望の深さが見えてくる。

「メリトクラシーを日本語訳すると『能力主義』になります。『Merit』を『能力』と訳している。しかし、アメリカにおける文脈では、『功績』という意味が最も近いと思います。功績主義と能力主義は似ているようで明確な違いがある。功績主義の場合、何らかの機会が与えられ、そこで結果を出すことで人生が決まると考えます。だからこそ機会の平等の大切さが叫ばれるわけで、少なくともバッターボックスに立つことは前提となっている。一方で、能力主義の場合、もちろん結果を出すことが重要なのは変わりませんが、バッターボックスに立つ/立たないという機会以前の問題として、人にはそれぞれ固有の能力が備わっていて、その能力によって平等が実現されるというニュアンスが含まれています。功績を挙げられないのと、そもそも能力がないのとでは、後者の方がもたらされる諦めは深い。これが『親ガチャ』という言葉に含まれる絶望感にもつながってくると考えます」

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