太陽が通信や電気などのインフラに被害を及ぼす「宇宙天気予報」のあり方
#宇宙
「宇宙天気予報」というのをご存じだろうか。太陽活動が航空無線、電力網、通信・放送・測位システムなどの社会インフラに影響を与える可能性があり、これを予警報として発信するものだ。総務省では現在、宇宙天気予報の高度化のあり方について検討を進めている。
現在、宇宙天気予報は国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が、太陽活動や電離圏・磁気圏を観測・分析し、24時間365日の有人運用による宇宙天気予報を関係機関に提供している。
総務省では21年12月に、宇宙天気予報をより高度化し、社会インフラに与える影響を検討し、行政や企業向けに警報を発する仕組み作りを検討するため、「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」を立ち上げた。
例えば、太陽表面の異常爆発である「太陽フレア」は、有害な高エネルギーの粒子や大量の放射線が発生し、通信障害や大規模停電を起こすおそれがある。
検討会がまとめた100年に1度程度で発生する大規模な太陽フレアによる最悪の被害想定では、それぞれの社会インフラで以下のような主な被害が起こる可能性があると指摘している。
<通信・放送・レーダー>
・船舶無線や航空無線、アマチュア無線は全国的に使用不可となる状況が2週間断続的に続く。
・防災行 政無線、消防無線、警察無線、タクシー無線、列車無線等の通信システムは昼間の時間帯に断続的に使用できなくなる期間が全国的に2週間続く。
・携帯電話システムは昼間の時間帯に最大で数時間程度のサービス停止が全国の一部エリアで2週間にわたり断続的に発生する。
・テレビは昼間の時間帯に最大で数時間程度の受信障害が全国の一部エリアで2週間にわたり断続的に発生する。
<衛星測位>
・カーナビゲーションや自動運転、ドローンの位置精度が大幅に低下し、最大で数十メートルの誤差が生じ、衝突事故が発生する可能性がある。
・農業機械、建設機械、車両、ロボット、貨物追跡システム、鉄道、船舶では、測位精度の大幅劣化や測位の途絶に伴い、運行抑制が2週間にわたり断続的に発生する。
<衛星運用>
・多くの衛星になんらかの障害・不具合・故障が発生し、そのうち相当数の衛星はシステム機能の一部または全体を喪失する。
・天気予報の精度が劣化する。衛星通信の利用が困難になる。衛星放送の視聴が困難になる。
・衛星測位の利用が困難になり、航空機は全世界的に運航見合わせや減便が2週間にわたり多発する。
・航空管制レーダーが使用困難となり、観測能力の低下が各地域で2週間にわたり断続的に発生する。空港閉鎖が2週間にわたり発生する。
<電力分野>
・保護装置の誤作動が発生し、広域停電が各地で発生する。
・一部の変圧器の加熱による損傷が各地で発生し、電力供給に影響が出る。
以上のような被害が想定される中で、総務省は宇宙天気予報の高度化を進め、22年度中にも予警報を発信できる体制を作っていく方針だ。
さらに、「宇宙天気予報士制度」「宇宙天気検定」の創設も検討されている。
宇宙天気検定に合格することで、宇宙天気予報士の資格を有し、宇宙天気予報士は宇宙天気キャスターとしてサイエンスコミュニケーターの役割を担う。国民などに対する情報・知識の提供や防災活動、あるいは観光業との連携などを行っていく。
すでに、国連防災機関は21年に宇宙天気を対処すべき災害の一つに位置付けている。欧米の先進国では、宇宙天気に対する備えを国家戦略として取り入れている国も多い。
日本においても、欧米に遅れることなく、早急に宇宙天気予報に対する体制を整備し、想定される被害を軽微にする対策を行う必要があろう。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事