野村周平主演『アライブフーン』が世界に誇るドリフトを魅せた理由
#野村周平 #ヒナタカ
CGナシのド迫力のレースが生まれた理由
本作の目玉はなんと言っても(ゲーム画面以外では)CGナシ、本物のクルマを走らせて撮影したドリフトの迫力だ。時には超スピードで走るクルマと並走して、時には「ぐわんぐわん」と縦横無尽に動くカメラワークで、一瞬の判断が勝敗を分けるレースを、これ以上はないと言うほどにスクリーンに映し出し、目を釘付けにさせてくれる。
CGナシのレースはアメリカ映画『フォードvsフェラーリ』(2019)でもウリになっていたが、それに迫る映像を日本映画で実現したことにも感動させられた。吉川清之による音楽もノリノリで一進一退の勝負を最高潮に盛り上げてくれていた。
下⼭天監督によると、ドローンや撮影カメラが壊れることもいとわない、リアルをギリギリまで追い求めた撮影こそがもっとも苦労したことであり、互いの信頼関係があるチームだからこそ実現できたと語られている。プロドライバーとキャストが乗り合わせ「実際のスピード」の中でキャストに演じてもらい、さらに映像を「運転席と助⼿席を反転させる」ことでもリアルな画になるような工夫もしていたのだそうだ。
しかも、下⼭監督は編集も兼任。撮影した素材は100TBを超える量、ハードディスクの稼働のために月の電気代は2万円にもなり、半年間の孤独な巣篭もり作業を続けてやっと完成したという。撮影だけでもとんでもない労力であったのに、「その後」にまた血の滲むような努力があってこその、見応えたっぷりの映像になっているのだ。
しかも、ドリフトを多⽤するドライビングスタイルから「ドリキン」(ドリフトキングの略称)と呼ばれる元レーシングドライバーの⼟屋圭市が監修を担当している。彼をもってして映像は太鼓判を押す出来映えだったよう。実際に⾞を⾛らせていないカットでの、⼟屋の友情出演も見所だろう。
福島からドリフトを世界に送り出す
タイヤを横滑りさせながら走行するドリフトはカーレースに詳しくない方でも知っているテクニックであるが、劇中では「速さだけでなく、ドリフト中の姿勢などの美しさも総合的に競う」採点式の“追走”の競技が行われており、それは日本発祥のものだという。ドリフトは⼟屋圭市の活躍もあって世界に浸透していたそうで、この映画は今一度「日本が誇るレース文化」を見せつけることにも確かな意義を感じられた。
下⼭天監督は、ドリフトの聖地であるエビスサーキットが福島県にあり、映画学校や映画祭で10年以上関わって来たその地で撮影ができたことに縁を感じていたそう。その上で「ドリフトを最⼤級のエンターテインメントとして、福島県から世の中に送り出したいという気持ちでこの映画を作った」と熱い思いを語っていた。そこには、2011年の東⽇本⼤震災、それに伴う福島第⼀原⼦⼒発電所事故により、現在も実家に帰れない⽅々が多くいる中で、「本作が福島の明るい未来の⼀助となりますように」というメッセージも、映画に込めたのだという。
ちなみに、タイトルの『ALIVEHOON』の語源は「ALIVE = ⽣きる」と「HOON = ⾛り屋の俗語」を合わせた言葉。知られざる「今を⽣きる⾛り屋たち」であるプロフェッショナルたちの熱い思いも、きっと受け取れるだろう。それはリアルでもeスポーツというバーチャルでも変わらない。だからこそ、カーレースのファンはもちろん、そうでない方にも劇場で観ていただきたい一本だ。
『ALIVEHOON アライブフーン』
監督・編集:下山天
出演:野村周平、吉川愛、青柳翔、福山翔大、本田博太郎、モロ師岡、土屋アンナ、きづき、陣内孝則、土屋圭市(友情出演)
エグゼクティブプロデューサー・企画原案:影山龍司
プロデューサー:瀬木直貴、沢井正樹
監修:土屋圭市
脚本:作道雄、高明
撮影監督:清川耕史
音楽:吉川清之
主題歌:「Hunter or Prey」(NOISEMAKER)
上映時間:120分
配給:イオンエンターテイメント
C)2022アライブフーン製作委員会
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