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謎多き「曽我兄弟の仇討ち」――複雑な人間ドラマを『鎌倉殿』はどのように描く?

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

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曽我五郎(田中俊介)、曽我十郎(田邊和也)と時政(坂東彌十郎)| ドラマ公式サイトより

 次回・第23回の『鎌倉殿の13人』は、北条義時(小栗旬さん)の嫡男・金剛役がこのタイミングで坂口健太郎さんに交代するようで、次回予告の時点ですでに話題になっているようですね。

 また予告では、「討ち取ったり!」という曽我兄弟のものだと思われる雄叫びや、仁田忠常(高岸宏行さん)の「鎌倉殿が……!」という不穏なセリフが乱れ飛んでいたので、「曽我兄弟の仇討ち」が大々的に描かれるようです。この伝統的なテーマを三谷幸喜さんがどのように解釈してくれるのか、それが大きな見どころになるでしょう。

 とはいえ、現代日本では「曽我兄弟」とか「仇討ち」とか言われてもピンと来ない方が多いと思われるのと、三谷さんのこれまでの表現傾向から考えると、定番の描かれ方に相当のアレンジを加えた内容になることが予測されます。

 積年の思いを遂げる「曽我兄弟の仇討ち」は、歌舞伎の正月公演でよく取り上げられる演目です。「おめでたい」テーマなのですね。しかし歌舞伎では、キャラクターの外見、内容ともに高度に様式化されており、筆者はその歴史的背景までは考えたことがありませんでした。しかし、今回、執筆のために改めて調べてみると、複雑な人間関係をベースとした謎だらけの血なまぐさい事件だったとわかり、衝撃でした。今回はこの「曽我兄弟の仇討ち」という大きなテーマを、限られた文字数の中で、できるかぎり深掘りしていきたいと思います。

 「仇討ち」と聞いて現代日本人が一番に想像するのは、江戸時代の「忠臣蔵」(赤穂浪士の討ち入り)でしょう。しかし、かつては「忠臣蔵」と同じくらい、あるいはそれ以上に「曽我兄弟の仇討ち」の逸話は有名でした。

 日本史の中で長く愛好されてきた「仇討ち物」というジャンルの最初の金字塔となったのが、「曽我兄弟の仇討ち」です。鎌倉幕府の公式史である『吾妻鏡』にもこの話は登場しますし、鎌倉時代末~室町時代初頭には『曽我物語』などの表題で物語化されました。江戸時代には数々の歌舞伎で描かれた大人気テーマだったのです。

 しかし、現代日本ではあまりポピュラーとはいえないでしょう。そもそも「曽我兄弟」はもちろん、「忠臣蔵」でさえ、ここ最近は新作が出なくなってきましたよね。これは、「仇討ち」に対する日本人の感性が変わりつつあるからだと筆者には思われます。

 「仇討ち物」には“お約束”があります。主人公たちが我慢に我慢を重ね、最終的には仇敵を殺すことに成功するのですが、彼らの最期は悲惨で、命を奪われてしまうのです。わが命と引き換えに、にっくき相手を葬りさることができるならばそれで良しとする「仇討ち物」の美学は、現代人には理解しづらくなってきているのではないでしょうか。『鎌倉殿』では、「仇討ち」という現代日本では少々、馴染みがあるとはいえなくなったテーマを真正面から描くようです。

 前回の放送では北条時政(坂東彌十郎さん)のもとに、曽我兄弟こと曽我祐成(すけなり)・時致(ときむね)の二人が訪ねてくるシーンがありました(ドラマでは「曽我十郎」「曽我五郎」でそれぞれ田邊和也さん、田中俊介さん)。ドラマでも語られていたとおり、北条時政は、曽我兄弟の弟・時致の烏帽子(えぼし)親です。当時、男子の元服(現在でいう成人式)の儀式では、親族などから一人の男性を選び、成人する子の頭に烏帽子をかぶせてもらうという慣習がありました。その役割を務める男性が烏帽子親で、元服した子の後見人として、世話を焼くことが期待されるようになります。

 ドラマの曽我兄弟は、北条時政に本心を打ち明け、彼らの亡き父・河津祐泰(かわづ・すけやす)を殺害した工藤祐経(くどう・すけつね)を討ちたいと相談しました。すると時政は、父の仇討ちを考えている兄弟を妻のりく(宮沢りえさん)と共に褒めたたえ、烏帽子親として彼らに協力を惜しまないと告げたのです。

 江戸時代になっても、武家社会では仇討ちを立派なことだと考える風習はありましたし、全面的に応援するのが正義でした。所属する藩や幕府に仇討ちの予定があると届け出ると、公式休暇がもらえました。仇討ちとは「良いこと」で、他の殺人とは区別して考えられていたのです。

 しかし曽我兄弟には、時政には伝えていない秘密がありました。彼らは父の仇・工藤祐経だけでなく、武士たちの間で急速に支持を失いつつある源頼朝をも暗殺したいという目的があったのです。そして、彼らをウラで操っているのが、ドラマでは岡崎義実(たかお鷹さん)ということのようですね。

 岡崎義実は、大庭景義と共に頼朝の挙兵時からの功臣でしたが、この「曽我兄弟の仇討ち」事件のあと、なぜか二人して出家してしまっており、『吾妻鏡』ではその理由を明らかにしていません。『鎌倉殿』の時代考証を務める研究者・坂井孝一さんの仮説(『曽我物語の史実と虚構』)では、曽我兄弟の仇討ちを知っていた北条時政が頼朝と共謀、彼らに反抗的な武士団を仇討ちの混乱に乗じて粛清するつもりだったのが、そこに彼らが把握できていなかった岡崎義実と大庭景義の反乱まで起きてしまい、カオスなことになった……とされており、『鎌倉殿』でも、相当複雑な人間ドラマが展開されると予測されます。次回の放送は「ながら見」ではとても理解できない気がするので、テレビの前にスタンバイしての視聴をおすすめします。

 このように、「曽我兄弟の仇討ち」は、“遺児二人が亡き父の仇を討った”という単純な話ではなく、さまざまな人間関係や思惑が入り組み、簡単には説明できないほどの膨大な情報量があります。しかし、そもそも、曽我兄弟が仇討ちを誓った経緯は、いったいどのようなものだったのでしょうか。まずはこちらを知っておかないと訳がわからなくなるので、なるべく簡潔に説明しておきましょう。(1/2 P2はこちら

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