「不良の溜まり場」とも蔑まれた“ゲーセン”の知られざる歴史
#ゲーム #インタビュー #ゲームセンター
UFOキャッチャーは産業的にも文化的にも超・重要
――ヤンキー文化の衰退とゲーセンの風景の変化は、関係あると思いますか。
川﨑 これはかなり主観が入りますが、80年代は不良少年が多く、それが遊びやすい場所に自然と集まっていたので、ゲーセンで問題が起きるのは仕方ないといえました。また、90年代頃まではカツアゲも起きやすい環境にありました。でも、ヤンキー自体が減り、かつ、法規制によって深夜営業ができないゲーセンとは違って、24時間溜まれるコンビニやファミレスに集まりやすくなっていったのかなと。
ゲームの内容に関しても不良に刺さるゲームが減った印象があります。80年代だと『熱血硬派くにおくん』のようなアウトローが主人公のものがありましたが、90年代以降は不良が主役のゲームってあまり思いつかない気はします。まあ、プレイヤーに関しては「『鉄拳』のプレイヤーははガラの悪い人が多い」みたいなイメージが昔はありましたが……それも本当だったのか、『鉄拳』にだけなぜそういう印象が残ったのかは考えたいところです。
あとは、お店側の変化もありますね。僕はかつて格闘ゲームの『ジョジョの奇妙な冒険』の対戦で勝ったら、不良にどつかれて2000円取られましたが(苦笑)、そのときには店員さんが近くにいなかったのがカツアゲを受けた主な原因だと考えています。残っているゲームセンターの多くは店員さんがしっかり見回っているところが主体になっていったことも、不良がゲームセンターで悪さをしにくくなった要因だと思います。
――いわゆるマイルドヤンキー的なカルチャーとしては、郊外だと車のフロントガラスの隙間にUFOキャッチャーでゲットした人形を敷き詰める、みたいなものが今もありますよね。喫茶店の麻雀ゲームや駄菓子屋の片隅のネオジオは廃れましたが、いまだにスーパーの一角にクレーンゲームが置いてあったり、こちらはしぶとく生き残っています。
川﨑 UFOキャッチャーのようなプライズゲームは、アーケードゲームの中でこの30年ほどおそらくほぼトップの売れ行きで、ゲームセンター史的にも非常に重要な存在です。ラウンドワンでは「ギガクレーン」と呼んでフロア一面にプライズゲームを展開しているところもありますね。
現代風俗研究会の研究誌にボトス・ブノワさんが、クレーンゲームの景品が800円のものまでOKになったのはなぜかという政府と業界団体との交渉の流れや、プレイヤーと店員の間の「ちょっと(景品を)動かしましょうか?」といった交渉について論文【註】を書かれていて、ものすごく面白かったです。ブノワさんの研究のように、プライズゲームがなぜここまで人を惹きつけ、どう遊ばれ、社会的にどんな意味合いがあるのか、もっと研究しないといけないと思っています。
――今後のゲームセンターのありようのヒントにもなる本だと思いましたが、研究者として業界に望むことはありますか。
川﨑 ゲームセンターは衰退や停滞論が語られることも多いのですが、個人的にはその点に関しては底を打っただろうと前向きにとらえています。ただし、やはりCOVID-19の流行は、テーマパークやほかの娯楽施設と同様に、大きく打撃を受ける形でゲームセンターに影響を与えましたし、今もその影響を受け続けています。この状況下でゲームセンターもなんとか生き残るべくさまざまな試みをなされているので、私も研究者として何かお手伝いできることがあればしていきたいと思っています。
また、ゲーム開発者の方は自伝を出されたりメディアに出ることも多い一方で、営業・販売・流通側の話がなかなか出てこないんですね。もちろん商売上、秘密にしないといけない部分もあるでしょうが、過去の話に関してはもっと出していただけないかな、と。そのあたりがもっと解明されていくと、研究的にも業界の今後にとっても非常に意義ある言説が蓄積されていくように思っています。
【註】ボトス=ブノワ、2020、「クレーンゲームが日本のゲームセンター文化にもたらした変化:アミューズメント産業としての側面とゲームセンター店員の役割に着目して」『現代風俗学研究』第20号、3-11.
川﨑寧生(かわさき・やすお)
1984年、奈良県奈良市生まれ。立命館大学ゲーム研究センター客員研究員。2020年10月、立命館大学大学院先端総合学術研究科先端総合学術専攻(表象領域)一貫制博士課程修了。博士(学術)。専門は歴史社会学、戦後日本史、社会統制史。ゲームセンターを中心とした娯楽施設について、それらの「場所」にいる人々と娯楽のありようや、施設に対する社会統制が与える社会的・歴史的影響に着目して研究を進めている。
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