RHTやMFS他新星が登場!再び絡み合い始めた〈ラップ〉と〈ダンス〉
#HIPHOP #つやちゃん
『POP YOURS』でも堂々パフォーマンスした新世代〈MFS〉
一方で2010年代半ば以降、よりラップの現場に近い地点で、ダンスのノリを導入するパフォーマーが様々な表現を展開してきた流れもあるだろう。
例えばそれは大門弥生であり、Henny Kであり、身体の曲線美をなぞりながらそのループ性を中毒的に肯定する退廃的表現として、ひとつのジャンル内トレンドを形成した。
今年に入ってからも彼女たちの活動は躍動し続けている。大門弥生は1月に2年ぶりとなるEP『My Own Boss』をリリースし多彩なビートに乗るさまを改めて披露し、Henny KはYDと「FREE」での隙間のあるトラップビートを乗りこなす好演を見せた。
しかし、ラップとダンスの関係は、ここに来てさらなる魅力的な緊張感へ踏み込もうとしている。先日届けられた、とある女性ラッパーによる1枚のEPが、新たなノリを発しながら私たちを次のステージへと引きずり回そうとしているからだ。
『POP YOURS』での物怖じしない堂々としたパフォーマンスも記憶に新しい、その新世代のラッパーは〈MFS〉なるMCネームを名乗っており、幼少期からダンスと歌をフラットに楽しんできたという新世代ならではの鮮やかなグルーヴが鮮烈である。大阪を拠点に活動を広げるコレクティブ「tha Joinz」の一員として頭角を現すと早々にRed Bull『RASEN』に抜擢、そのままデビューEP『FREAKY』をリリース。ほどなくしてJNKMN/Leon Fanourakis,/MFS/MonyHorse/SPARTAの豪華メンバーでヒットを記録した「Beyond the lines」でも爪痕を残し、充実のうちに21年を終えた。そして22年、約1年のインターバルで届けられた新作EPが『style』である。
その気怠いがキレのあるラップは、ドミノ倒しのようにつらつらと次のリリックを繋ぎながらだらだら展開されていく。しかし、抑揚がないわけではない。ポップで耳に残る発声、ザラっとした粗い声は新鮮さをまといながら響く。さらに特筆すべきは、特有のタメが生むルーズな引き算のノリであろう。あくまで自然体を彷彿とさせるおぼつかない足取りは、「Ya」「Huh」「OK」といった合いの手が頻繁に入ることで、自然と身体が揺れるようなリズムを生成する。
ここで聴ける発声やノリからは、J-POP的要素がまったくと言っていいほど感じられない。国内でヒップホップを生み出してきた多くの女性のラッパーたちは、多かれ少なかれ何かしら“J”のフィールを感じさせるのが常だが、それが伝わってこないのだ。良い悪いの議論ではなく、MFSの“J”から遠く離れた表現は、J-POPという特定の国の音楽とは異なる次元の<身体を動かすこと=ダンス由来の運動神経>からしか成立していないような錯覚を感じさせる。
ところが、MFSは笑いながら我々を煙に巻くのだ。
これだけ“J”から距離感のあるサウンドをなびかせながら、「No Type」では「英語話せなくても使いたい」と宣言し、「22gang」では「何を混ぜたのか?/アメリカとジャパン/私英語話せない」と歌う。ある種の引き算的な、リスナーの調子を狂わせるようなつかみどころのないサウンドとリリックのボタンの掛け違いは、ミニマルなトラックとも相まってルーズさの演出に寄与しており、聴く者の身体をゆるやかに躍らせる。
そもそも、冒頭の「When i was young」から同じような調子だ。今や手垢のついた「skrr skrr」の合いの手を惜しみなく使うことでそれが効果的なノリを作り出しているが、ここでもMFSは「免許持ってないけどもうGo」と歌う。素晴らしい「skrr skrr」を聴かせながらも「免許持ってない」という調子を狂わせるような運動で、再びルーズさを発動しながら私たちの身体を引きずり回す。
さて、近年のラップミュージックとダンスが新たな関係性を結んでいるという主張をする際、その新しさが“多様さ”と同義であることをあなたは気づき始めているだろう。
「RHT」のような、音楽をそのまま映像化したようなきびきびしたダンスをラップミュージックとともに踊るチームもいれば、MFSのように身体性とリリックを深部で絡ませながら聴く者の身体を自然と揺らすようなラッパーもいる。身体のキレから息吹くフットワークは、言葉の羅列に動的な生命力を与えているのだ。
今、ストリート最前線のダイナミズムを体現するために――さぁ、レッツ・ダンス! あなたの身体は、すでに揺れ始めている。音楽は、鳴り始めている。
[つやちゃんプロフィール]
文筆家/ライター。ヒップホップやラップミュージックを中心に、さまざまなカルチャーにまつわる論考を執筆。雑誌やウェブメディアへの寄稿をはじめ、アーティストのインタビューも多数。初の著書『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)が1月28日に発売されたばかり。
Twitter: @https://twitter.com/shadow0918
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