鈴木もぐら「歯がいらな~い」古くて新しい食リポの様式美
#テレビ日記
有吉弘行「お前じゃなきゃな」
ある種のロケ映像には定型的な流れがある。たとえば、努力の末に成功がある、挫折を乗り越えて勝利をつかむ、といった流れだ。もちろん、実際に努力の末に成功があったパターンや、挫折を乗り越えて勝利をつかんだケースもあるのだろう。が、そういう感動を喚起するフレームに合致するようにうまく編集していないか、と邪推してしまうような映像もある。
そんななかにあって、『有吉ジャポンⅡ ジロジロ有吉』(TBS系)。この番組では、芸能人がまだ世間に浸透していない競技やイベント、アイテムなどを初体験するロケ映像が流される。最近は、女性の芸人がロケに出ることが多い。荒川(エルフ)や高木ひとみ○(ぽんぽこ)、横井かりこる(フタリシズカ)など、この番組で常連のようになっている芸人もいるが、週替りで異なる芸人が出ていたりもする。その事実が、女性芸人の層が分厚くなってきていることを示してもいる。
で、そんな『ジロジロ有吉』でのロケだけれど、成功する場面もよくある。スポーツ・バーベキュー(1枚の肉をいかに美しく、おいしく焼けるかを競うアメリカ生まれの競技)の大会に参加したミナコ(どんぐりぱわーず)が優勝したり。はる(エルフ)が50mの氷の壁をクライミングで登り切ったり。元自衛官で芸人のやす子がアクションシューティングで見事な早撃ちの腕前を見せたり。
そういう成功パターンがある一方で、『ジロジロ有吉』では失敗パターンもよく放送される。ヒコロヒーが野湯(自然のなかにある整備されていない温泉)を探すロケで断念したりとか。高木ひとみ○と横井かりこるがフォトゲイニング(地図とコンパスだけを頼りに観光地をめぐって写真を撮りポイントを競う競技)で47組中45位に沈んだりとか。
27日の放送もそうだった。この日の芸人は、はな(元はなしょー)。彼女がバックラフトという軽量ボートで多摩川を26km、9時間かけて下るロケをしていた。目標は、多摩大橋で夕日を見ること。バックラフト初挑戦のはなは、時に転覆しながら激流を下った。そこに彼女の努力を見ることは難しくない。
また、彼女は今年4月にコンビ(はなしょー)を解散していた。これまで『THE W』(日本テレビ系)の決勝に3度進出し、2019年は準優勝するなどコントが評価されてきたはなしょー。そんななかでの解散だったため、SNSでは惜しむ声も多く聞かれた。
そんななかでの今回の挑戦。VTRは今回の挑戦が解散後の大きなチャレンジであることを強調する。はなは言う。
「ひとりでもがんばってるってところ、元相方に見てもらいたい」
ひたむきな努力。解散を乗り越える物語。成功に向けたお膳立ては万全である。彼女は無事、ゴールで夕日を見ることができるのか――。期待が高まったところでVTRに映ったのは、真っ暗ななかでボートを担ぐはなの姿。安全のため、川下りは途中でリタイア。時間的にはまったく間に合わなかったらしい。
そんなVTRを見たスタジオの有吉は「ホントはすごいことやってる」と、はなに暖かい声をかけた。が、それも一瞬のこと。有吉はすぐさま「お前じゃなきゃな」と“悪態”をついて笑いにするのだった。
努力しても、物語があっても、できないものはできない。『ジロジロ有吉』はしばしばそんなケースをVTRにまとめ、笑いに変える。“それもアリ”にする。
歯がなくてもそれはそれでアリ。できなくてもそれはそれでアリ。定型句にあふれ、ネガティブなものが漂白される世界で、そんな番組はとても貴重なものに思えるのだ――みたいなありきたりなまとめは、ちょっと定型句すぎるかもしれない。
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