山下達郎は違っても…ベテランアーティストがサブスク解禁する裏事情──音楽業界の現在地
#音楽業界 #サブスク
“生き残るためには今までとは異なる発想でビジネスを模索する必要がある”
現在、サブスク1再生あたりの利益は、0.5~1円が相場であるといわれているが、アーティストの契約内容やアグリゲーター(登録仲介業者)手数料などによって額面は変動するので、一概に〈1再生1円〉という方程式は成り立たない(ただし、100%還元を売りにしているTuneCoreのようなサービスも存在する)。この金額が安いか高いかを判断するのは難しいが、現実問題として、コロナ禍でライブやフェスが十分に行えない状況のため、サブスクやCD販売のみで稼げているアーティストはごく少数。昨年の2020年はオンラインライブなども話題になっていたが、現在はそれも下火のようだ。C氏が昨今のライブ事情を教えてくれた。
「オンラインや無観客ライブは今春(2021年春)くらいからアーティストや事務所側のモチベーションが一気に低下しています。大きな理由として、まず経費がかさむ。オンラインや無観客だからといって、会場費が安くなることはありません。さらに配信となると、通常のライブ設営に必要な人材に加え、クオリティを重視する配信業者を雇わなくてはいけない。また、チケットは通常のライブよりも安くしないと売れなかったりと、踏んだり蹴ったりです」
ライブがオンラインであれば、物販もオンラインで──。D氏によれば、ライブやフェスで大きな収益となる物販も、こんな時期だからこそオンラインに力を入れているようだ。
「Tシャツやパーカー、タオルはオンラインでも売れるんですが、やはりフェスやワンマン会場での物販の勢いと比べたら(売り上げは)下がる。なので『ステイホームに特化したアイテムを作ろう』と、携帯スタンドや充電器、付せん、ポータブルスピーカーなど、文具店や家電量販店で販売されているようなグッズを展開するアーティストもいましたが、売れ行きは芳しくない。あと、グッズと呼んでいいのかわかりませんが、限定生産のアナログレコードを販売するアーティストは増えましたね。これはアナログ世代のファンが購入するというより、レコードに触れたことのない若い世代からの注文が多いことも特徴です」
アナログに関してはインディも力を入れているとB氏も深くうなずく。
「CDが売れない中、アナログブームはまだ続いていて、コロナ禍で需要はさらに高まった印象です。外食や洋服に使うお金が減ったことで、コレクターアイテム的にアナログを買う人が増えている。基本的に受注生産で枚数も限定、CDと比べて作るのに時間もお金もかかるんですが、単純に単価が高いので商売としては確実に数字を見込めます。ただ、コロナが落ち着いたらどうなるか? という心配はありますが、海外からのオーダーも多いので、しばらくはアナログ生産は継続するかと思いますね」
レーベル/アーティストともに生き残るためには、今までとは異なる発想でビジネスを模索せねばならない。最後に、レーベルのスタッフが口を揃えて“次なる金脈”として注目しているポッドキャストについて触れておこう。一度は廃れたと思われていた音声メディアだが、再燃している状況をC氏が解説してくれた。
「特にSpotifyはポッドキャスト事業に注力していて、イケてるポッドキャストを配信しているクリエイターを囲い、金銭的支援をした上で(Spotifyの)オリジナルコンテンツとして配信を促しています。
ポッドキャストを“ラジオ”のようなメディアと思い込んでいる人が多いかと思いますが、ラジオ風にする必要性はまったくないんです。例えば料理についてトークをした後に、『楽しみながら料理できる15曲』などを番組終了後にプレイリストとして公開すればいいだけ。そのプレイリストからファンは新しい音楽と出会うことになり、広がりを持てる。その仕組みからしてもSpotifyと親和性が高いのは一目瞭然です。
つまり、ポッドキャストは大衆的ではなく、よりコアなファンを掴むためのツールとして機能させ、アーティストも話術を鍛えていけば、より効果的なプロモーションを展開することができる。『と、いうわけで、次の曲を聴いてください』とラジオ的に使うというフォーマットから脱却した先に、また音楽の新しいカルチャーが生まれるんじゃないかと感じています」
レーベルやアーティストも含めて、音楽業界全体とサブスクとの関係がより深まっていくことは間違いないだろう。ポストコロナも踏まえて、今後日本の音楽業界はどのように変化を遂げていくのか。
“音楽の新しいカルチャー”から誕生するアーティストは、もう近くまで来ているのかもしれない。
(文/代間 尽 「月刊サイゾー」2021年7.8月合併号 【裏“ヒットソング” 】特集より)
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