山下達郎は違っても…ベテランアーティストがサブスク解禁する裏事情──音楽業界の現在地
#音楽業界 #サブスク
「音楽業界的に信頼度が高いのはSpotify」
CDが売れない状況はメジャーも同様。A氏とは別のメジャーレーベルのA&Rを務めるC氏が語る。
「CDを求める層がいるのは間違いないのですが、あくまでも少数派です。CD全盛期と比較すると制作予算も最小限に抑えられていて、仮に作るならば“配信では得られない充実したパッケージ”にする必要があるのですが、実際はCDに挿入するブックレットをしっかり作っているレーベルも少ない」
B氏が新卒のスタッフから聞いたという次の発言は、若い世代にとってはCDがオワコン扱いにまで達していることがうかがえる。
「20代前半のスタッフの意見でしたが、彼ら世代にとってCDの存在はまったく眼中にありません。音楽を聴くのはサブスク一択で、CDは自分たちの両親や祖父母の世代に流行していた、一昔前のメディアみたいな中途半端な位置付けのようです」
やはり若い世代ほどサブスクがスタンダードというのが現状のようだが、ここでサブスク各社に対するレコード会社側の評価を、前出のB氏に聞いた。
「弊社での売り上げは断然Apple Musicが強く、次点にSpotify。この2強があり、LINE MUSIC、Amazon Music、AWA、YouTube Musicと続きます。海外はSpotifyの信頼が厚いですが、日本はApple信仰が強いので、自動的に(Apple Musicの)会員数増加に結びつく。また、最近テレビCMを絶え間なく打っているYouTube Musicの伸び率が高くなっています。日頃から接するYouTubeの音楽版ということで、親和性が高いことが要因かと思います」
さらにA氏がサブスク各社の個性の違いを分析。
「Apple Musicは売れているものしか推さない一方で、Spotifyは流行に左右されない独自路線を貫いています。圧倒的にユーザー数が多いのはアップルですが、音楽業界的に信頼度が高いのはSpotifyで、〈New Music Wednesday〉をはじめとしたプレイリストの影響力は絶大です」
その名の通り、毎週水曜日に更新されるSpotify公式のプレイリスト〈New Music Wednesday〉は、洋楽/邦楽、メジャー/インディ、有名/無名問わず、多種多様のアーティストの新曲をピックアップしている。国内のフォロワー数は約10万人と、同サービス内のプレイリストの中でも飛び抜けて多いわけではないが、独自の審美眼による選曲は音楽好きからの支持を集めている【編註:海外も国ごとに同プレイリストが存在するが、本体となる〈New Music Friday〉は370万人のフォロワーを抱える】。サブスク事情に詳しい、メジャーレーベルのスタッフD氏がSpotifyのプレイリストチームの裏側を教えてくれた。
「彼らは毎週数時間、複数のスタッフで会議室にこもり、2週間後に公開するプレイリストの打ち合わせを行います。しかも、バイアスをかけないために紙資料などには一切目を通さず、レコード会社から送られてきた曲単体を再生するのみ。実際にその選曲の妙が各プレイリストから見て取れるので、レーベルやアーティスト、リスナーからも絶大な信頼を得ています。ちなみにプレイリストチームのスタッフは、レーベルに勤務するスタッフとの接触が禁止されているほどです」
レーベルにとってはプロモーションの重要なツールとなるプレイリストだが、B氏がリストに担当アーティストの楽曲が選ばれることの難しさを語る。
「Spotifyに限らず、各サブスクの人気のプレイリストに選ばれると再生回数は確実に伸びますが、まず選ばれるのが困難、という壁にぶち当たります。特にSpotifyに至っては直接プロモーションができず、わかりやすくまとめた資料を作っても会議では見てもらえない。なので、懸命な売り込みがどこまで効力があるかは不明ですが(苦笑)、毎週の会議のテーブルに載せてもらうための努力は惜しんでいません」
プレイリストの望みを持ちつつも、ここ数年レーベルはTikTokでのプロモーションにも注力。本誌20年11月号掲載「レコード会社が頭を悩ます10代へ向けた販売戦略座談会」でもTikTokとサブスクとの相性の良さが指摘されていたが、B氏も担当アーティストの楽曲がTikTokでバズったことでサブスクの再生回数が大幅に伸びたという。
「TikTokのユーザーは気に留めなければ数秒でスワイプしてしまうので、アーティスト本人もレーベルも、ド頭2~3秒でインパクトを与えられる動画制作にいそしんでいます。そこからYouTubeやサブスクへ移動し、曲を聴いてもらうツールとしては、TikTokのパワーは侮れません。実際にYouTubeのコメント欄には「TikTokから来ました」という文言が多く見受けられます。TikTokでバズった曲は、ライブでもめちゃくちゃ盛り上がるようになりますからね」(2/4 P3はこちら)
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