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松本人志も批判、肥大化したBPOの“権力”
ところで、このポストの特集は、ジャーナリズムに関心がある人間なら読んでおくべきだろう。
BPO(放送倫理・番組向上委員会)はおかしい、ここが肥大すると、テレビ番組、特にバラエティ番組は殺されてしまうというのだ。
発端は、お笑い界のご意見番といわれるダウンタウンの松本人志が、5月15日に放送した『ワイドナショー』(フジテレビ系)でこう発言したことだったという。
「ダチョウ倶楽部の芸とかお笑いがテレビではやりずらくなってて。そういう思いとかジレンマとか、“痛みを伴う笑い”がダメと言われてしまうと、熱湯風呂とか熱々おでんとかもできない。
僕はあの芸が有害だなんてちっとも思わないし、それだけが理由とは思わないですけど、“BPOさん、どうお考えですかね?”と、ちょっと思いますね」
BPOは今年4月、「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティーに関する見解を公表し、他人の心身に痛みを与える行為は、青少年が模倣し、いじめに発展する危険性も考えられる、スタジオでゲストが笑いながら視聴する様子は、いじめの傍観を許容するモデルとなることが懸念される」とした。
BPOは、全国のテレビ・ラジオとNHKの放送番組向上協議会などが統合して、2003年に発足した独立機関だが、年々、その影響力を増し、「BPOの判断は最高裁の判断みたいなもので、ここが判断を出したら、いろいろ言いたいことがあっても、すべて守っていく」(フジテレビ系で放送していた『発掘! あるある大事典Ⅱ』のねつ造問題が告発されたときの、民放連の会長の証言から)
私が知っているBPOは、それほどの権力も調査力もなく、ねつ造というようなバカなことをしない限り、意見を聞き置くという程度のものでしかなかったが、テレビ側の何度も繰り返される呆れた番組作りに、視聴者側が反発し、その声がBPOの権限強化を促したのではないかと思っている。
とはいえ肥大化したBPOはポストのいうように、メディアをコントロールしたい権力側にとっては、よだれが出るほど魅力的な組織であろう。
今年の4月、自民党情報通信戦略調査会で、佐藤勉会長は、こう言ったそうだ。
「BPO委員の人選に国会が関われないか提起したい」
バカなことをいうものだ。これがどれくらい問題発言であるのか、当人も、自民党も、メディアさえも気がついていないのだろうか。
松本発言に戻ろう。私は、テレビを使ってお笑い芸人たちに熱湯を浴びせ、酷寒の海に入らせ、超激辛の食い物を口に押し込むなどは「芸」ではないと思っている。
あれは、芸のない芸人が、笑わない客にほとほと困って、客の脇の下をくすぐるようなものである。あんなものを見てゲラゲラ笑っているスタジオにいる客や、テレビの前の視聴者は、笑いというものがどういうものかを理解できない連中でしかない。
先日、松元ヒロの独演会を聞いてきた。2時間近く出ずっぱりで、心から笑わせてくれた。多少の自虐ネタはあったが、でんぐり返しをしたり、奇声を発するわけでもなく、しゃべりで満員の聴衆を楽しませてくれた。
彼は、政権批判が多いという理由で、テレビには出られない。だが、テレビで見られない芸人という地位を確立し、全国を公演して回っていて、休む暇がないようである。
こうした本物の芸を、テレビでは見ることができず、出来損ないの芸人たちが、まずいものを食っても「コレウマ」と大声を上げ、視聴者を引きつける話芸ができないから、熱い、危ない、苦しいことをやるしかないのだ。
芸ノー人ばかりが跋扈し、権力にちょっとでも噛みつけば、テレビ出入り禁止になる。
私は、BPOがやるべきは、芸があっても権力側の代理人であるテレビ局の上層部ににらまれると排除されてしまう、今のテレビ界の惨状を“改革”することだ。それが本来の仕事ではないのか、そう考えている。
テレビを見たらバカになるといったのは、大昔の大宅壮一であったが、その通りになった。
たしかにお笑い芸人たちに熱湯を浴びせたり、過酷な仕打ちをするのを見せることは、青少年のためにならないというのは理屈としては分かる。
いたずらに性欲を刺激する番組は真夜中にやれというのも分かる。だが、今は、ネットではなくても、NetflixやAmazonプライムでも、SEX場面がふんだんに見られる。
BPOが本当にテレビを向上させようという目的を持った組織なら、NHKをはじめとしたニュース番組の自民党偏重を正し、権力批判しても芸のある芸人たちをテレビに呼び戻し、スーパーや飲食店からカネをもらっているのではないかと疑われる食い物番組にメスを入れることこそ、今すぐにやるべきことだ。
それができないなら、BPOなんて組織に存在理由などない。
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