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日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 『20歳のソウル』神尾楓珠を賞賛

『20歳のソウル』神尾楓珠を心の底から讃えたい理由

喪失感と多幸感を同時に与えてくれる神尾楓珠の名演

『20歳のソウル』神尾楓珠を心の底から讃えたい理由の画像3
C) 2022「20歳のソウル」製作委員会

 その主人公の大義を演じた神尾楓珠が実に素晴らしい。現在Netflixで配信中の『彼女が好きなものは』(2021)でもそうなのだが、絶望を体現する演技に胸を締め付けられるし、笑顔の中にも複雑な感情を滲ませる様にも感動させられる。

 神尾楓珠は抜群のルックスがもてはやされるだけではなく、若手俳優として頭ひとつ抜きん出た演技力を、自らの努力で培ったのではないか。今回の『20歳のソウル』では闘病の様子はもちろんだが、終盤のある光景を見つめる時の表情にも注目してほしい。その時の彼が本当に愛おしいと思うからこそ、浅野大義という青年がその後に亡くなってしまうという喪失感と、生きていた時間があってこその多幸感を、同時に享受することができた。

 また、『彼女が好きなものは』での神尾楓珠は、前田旺志郎演じる朗らかな親友との掛け合いも魅力的だったが、今回の『20歳のソウル』はその兄である前田航基が親友になっているというのも面白い。その他、福本莉子や佐野晶哉などの若手俳優、佐藤浩市や尾野真千子や平泉成などのベテラン俳優が演じる「理解者である大人」のキャラクターに思い入れができる方もいるだろう。

原作小説から大胆に変わった構成

『20歳のソウル』神尾楓珠を心の底から讃えたい理由の画像4
C) 2022「20歳のソウル」製作委員会

 原作小説における各章のタイトルの多くは「第○章 告別式まで○日」であり、数日後に息子・大義の告別式を迎える母の視点がそれぞれの冒頭にある。つまり、主人公が亡くなった後の視点を定期的に入れ込むという、やや特殊な構成になっているのだ。

 だが、映画では主人公の大義の高校時代から、時系列通りに彼の生きた足跡を追うシンプルな構成になっている。序盤はどこにでもいる高校生がまっとうに青春を謳歌する姿が描かれており、「難病もの」らしい悲壮感はほとんどない(だが親友のとあるエピソードから「死」についての危うさも描かれている)。

 原作小説の作者であり、この映画の脚本も手がけている中井由梨子は、「小説は、登場人物の揺れる気持ちを細かく描こうと思っていた」「映画では、自分の生命力や才能を信じて生きる、“みんなのヒーロー”であるカッコいい大義を描きたかった」と、それぞれのアプローチについて語っている。

 筆者個人としても、映画でのシンプルな構成は、主人公がやがて死んでしまうという悲しさよりも、快活で優しくてまっすぐな性格を持つ人間、そして周りを変えていくヒーローとしての魅力が先立っているようにも思える。大胆に構成を変え、序盤がぜんぜん難病ものに思えないことも、『20歳のソウル』の物語、そして実在の人物である浅野大義を、新しいかたちで“語り直す”ことの意義を感じられた。

 何より、神尾楓珠が抜群の演技力と存在感を持って、浅野大義を「生きていた人間」として完璧なまでに体現したことが、映画にした最大の意義であるだろう。それを持って、本作のスタッフとキャスト、そして神尾楓珠を、心の底から賞賛したい。

『20歳のソウル』神尾楓珠を心の底から讃えたい理由の画像5
C) 2022「20歳のソウル」製作委員会

『20 歳のソウル』

5月27日(金) 全国ロードショー
出演:神尾楓珠 尾野真千子 福本莉子 佐野晶哉(Aぇ! group/関西ジャニーズ Jr.)前田航基 若林時英 佐藤美咲 宮部のぞみ 松大航也 塙宣之(ナイツ) 菅原永二 池田朱那 石崎なつみ 平泉成 石 黒賢(友情出演)/高橋克典 佐藤浩市
監督:秋山 純
脚本:中井由梨子
配給:日活
C) 2022「20歳のソウル」製作委員会

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2022/05/28 13:00
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