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吉岡里帆『ハケンアニメ!』ベストな「お仕事映画」だけどアニメ業界の“今”に欠ける?

難点は、アニメ業界の”今”が決定的に欠けていること

吉岡里帆『ハケンアニメ!』ベストな「お仕事映画」だけどアニメ業界の今に欠ける?の画像7
(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 お仕事映画、群像劇としては楽しめる作品というのは間違いないが、その一方で、リアルなアニメ業界を描く社会派という側面から見ると、そこはかなり弱いとしか言えない……。つまり、”今”が反映されていないのだ。

 現在のアニメ業界は、低賃金・過酷労働、海外への発注、中国からの引き抜きなど、多くの問題を抱えている。近年の働き方改革のムーブメントによって、“アニメ=ブラック業界”のように取り上げられることもあるほどだ。

 社会状況は、数年でガラリと変わってしまう。例えば原作小説の書かれた2012年が舞台であれば、まだ通用したのかもしれない。

 たかだか数年しか経っていないと思うかもしれないが、アニメ業界の数年は別ものと思えるほど環境が激変する。だからこそ、明確な年代を設定することで、”今”とは違うことを主張するか、極端なことを言えば“ファンタジー”に思わせることが重要であった。

 例えば、漫画家を目指す柳楽優弥の主演ドラマ『アオイホノオ』(16年、テレビ東京系)や、映画撮影の舞台裏を描いた松本まりか主演の配信映画『雨に叫べば』(21年)の舞台が80年代に設定されていたように、「物作り」のリアルな現場を描くうえでは、舞台設定を明確にしておかないと、ズレが生じてしまうのだ。

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(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 日本のアニメ=世界のトップというのはもうひと昔前の話であって、多くの才能が海外へ流出しているし、中国や韓国などアジア圏のクリエイターが、日本で学んだ技術を持ち帰って高いレベルの作品を作っているとの指摘もある。また最近では、日本が誇る漫画にも、アメコミからの影響が強く感じられるものが多くなっていたりする。

 明確にここ数年で変化したものとしては、ゲーム業界がいい例だ。かつては日本のゲームが世界トップといわれていたが、今では洋ゲーや洋ゲーのシステムを流用した作品が多くなっている。

 あくまで娯楽作品として、リアリティについては目をつぶることも必要だろう。しかし、本作はアニメ業界のリアルを切り取っていながら、“負”の部分が意図的に隠されているようにも思える。いつまでも「日本のアニメが最強」だということを主張したプロパガンダにも思えてしまうところは難点だといえるだろう。

『ハケンアニメ!』
2022年5月20日(金)より全国ロードショー

■出演:吉岡里帆 中村倫也 工藤阿須加 小野花梨 高野麻里佳 六角精児 柄本 佑 尾野真千子
■原作:辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス刊)  
■監督:吉野耕平  
■脚本:政池洋佑
■音楽:池頼広 
■主題歌:ジェニーハイ 「エクレール」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)
■制作プロダクション:東映東京撮影所  
■配給:東映

■公式サイト:haken-anime.jp
■公式Twitter:@hakenanime2022

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

Buffys Movie & Money!

ばふぃーよしかわ

最終更新:2022/05/20 08:00
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