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吉岡里帆『ハケンアニメ!』ベストな「お仕事映画」だけどアニメ業界の“今”に欠ける?

吉岡里帆『ハケンアニメ!』ベストな「お仕事映画」だけどアニメ業界の今に欠ける?の画像1
(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 日本が代表するコンテンツのひとつであるアニメ。そんなアニメ業界の中で奮闘する人々のそれぞれの想いと葛藤が交差する群像劇でありながら、まさに娯楽映画といえるスピーディーな展開。

 そして、最前線で活躍するクリエイターたちによって生み出された、劇中で展開されるオリジナル・アニメパートのクオリティの高さも魅力のひとつ。吉岡里帆が28歳の新人アニメ監督役を演じる『ハケンアニメ!』が、5月20日から公開される。

吉岡里帆『ハケンアニメ!』ベストな「お仕事映画」だけどアニメ業界の今に欠ける?の画像2
(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 本作は試写が毎回満席になるほど、公開前から大きな注目を浴びる話題作のひとつだ。筆者の感想としては、感動することは間違いなしのよく出来た作品だと思う一方で、決定的な問題点もあるのではないか、というものだ。極端によかった部分と極端に悪かった部分が共存しており、どこに視点を置いて観るかによって、その評価は大きく違ってくると感じた。その点も含めて、映画『ハケンアニメ!』を紹介していこう。

【ストーリー】
連続アニメ『サウンドバック 奏の石』で夢の監督デビューが決定した斎藤瞳(吉岡里帆)。だが、気合いが空回りして制作現場には早くも暗雲が……。瞳を大抜擢してくれたはずのプロデューサー・行城理(柄本佑)は、ビジネス最優先で瞳にとって最大のストレスメーカー。「なんで分かってくれないの!」だけど日本中に最高のアニメを届けたい! そんなワケで目下大奮闘中。最大のライバルは『運命戦線リデルライト』。瞳も憧れる天才・王子千晴(中村倫也)監督の復帰作だ。王子復活に懸けるのはその才能に惚れ抜いたプロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)…しかし、彼女も王子の超ワガママ、気まぐれに振り回され「お前、ほんっとーに、ふざけんな!」と、大大悪戦苦闘中だった。瞳は一筋縄じゃいかないスタッフや声優たちも巻き込んで、熱い“想い”をぶつけ合いながら “ハケン=覇権” を争う戦いを繰り広げる!! その勝負の行方は!? アニメの仕事人たちを待つのは栄冠か? 果たして、瞳の想いは人々の胸に刺さるのか……?

※これよりネタバレ要素を含みます。

吉岡里帆演じる28歳アニメ監督が直面する、業界の現実

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(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 本作は、”お仕事映画”としての側面から観ると、完成度は間違いなく高い。それぞれの個性的なキャラクターが目標を達成するために、心がひとつになっていく『下町ロケット』(2015年、TBS系)や『重版出来!』(16年、同)、古くは『コーチ (COACH)」(1996年、フジテレビ系)や『東京ラブ・シネマ」(03年、同)などのようなドラマ作品と同じく、作り手と、それをプロモーションする人たちによる共同作業としての「物作り」への情熱を描き、その中でのカタルシスが抜群に機能している。

 直木賞作家・辻村深月氏による本作の原作小説が連載されていたのは、ファッション雑誌「an・an」(マガジンハウス)だが、そこに大きな意味がありそうだ。連載がスタートしたのは、第2次安倍晋三内閣が発足した2012年。同年12月の女性の就業率は60.9%で前年までとほぼ横ばいまたは微増だったが、2013年から急ピッチで上昇し続けている。

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(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 女性の社会進出を背景に、いまだ根強く残る男性社会の業界で戦う女性像を描いているのも評価されたのだろう。フェミニズムをテーマに据えているわけではないものの、現実をシュガーコーティングしたわけではない、絶妙なラインのバランスで描かれている。

 実写化するにあたっても、そういったライトなフェミニズム要素は多く散りばめられている。アニメが人の心を動かすものと信じ、未来への可能性を信じる主人公・斎藤瞳(吉岡里帆)は、業界ではめずらしい“若い女性”監督であるため、「そこそこ可愛いから」と言われ、容姿をプロモーションに利用されてしまう。瞳は、そんなプロモーションに不満に感じながらも、アニメ業界が理想論だけでは通用しない世界であることを痛感していく。

 一方で、主人公以外にも、複数の視点が用意されている。例えば、実力よりも、アイドル的人気のある声優を起用する方針からキャスティングされたことをプレッシャーに感じながら、見返してやりたいという群野葵(高野麻里佳)の反骨精神なども描かれている(ちなみに、高野麻里佳は実際に声優として活躍中)。

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(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 商業作品として、プロモーションに使えるものはなんでも使う。いくら素晴らしい作品でも、人に観てもらえなければ始まらない……という、綺麗ごとだけでは済まない現実が差し迫る状況を、複数の視点・立場から描くことで、見事な群像劇に仕上げてきている。これは、アニメ業界だけに限らず、映画、テレビ、出版業界はもちろん、一般企業であっても通じる部分は多いはず。「アニメ業界、クリエイターの話だから自分には関係ない」のではなく、働く人の多くが共感できるポイントだといえる。

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(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 現実の厳しさを痛感しながらも、一方では好きなアニメへの信念を貫きたい、熱い想いも大切にしたい。しかし監督として、そのためには何を選択し、何を妥協するかを常に強いられる。その選択によって、全てのスタッフのモチベーションや作品の評価も左右される。胃が痛くなるような立場を、吉岡里帆が体現しているのも見どころだ。

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