『家つい』大家族ものに見る悲哀。7人姉妹長女への“お祝い”を“呪い”にしてほしくない
#テレビ東京 #家、ついて行ってイイですか?
5月11日放送の『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)は、「皆の愛の形を覗き見 3時間半SP」と題した拡大版であった。今回のゲストは、なんと中山美穂である。
大家族に密着、7人姉妹長女の“中学入学祝い”は…
2020年6月、埼玉県草加市のスーパーに「買い物代をお支払いしますので、後ほど家撮らせてもらっていいですか?」と記した定点カメラを設置しておくと、買い物中の母娘が話しかけてきてくれた。どうやら、2人の自宅には双子ちゃんがいて、さらに家は“ボロボロ”らしい。
このコメントに興味を抱いたスタッフは、母娘のお家をアポなしで訪ねた。そこにあったのは一軒家だ。見たところ、ボロボロの家ではなさそうだけど……。
インターホンを押すと、出迎えてくれたのは先程のママと娘さんたちだった。子どもたちが予想以上に大勢いる。数えると、なんと7人もの女児が! 当然だが、7人全員の顔が似ている。しかも、この中には双子ちゃんが2組もいるというのだ。スゴい家族構成である。
スーパーで話しかけてきてくれたのは10歳の長女・るうちゃんで、ママはまだ33歳だそう。33歳で7人の子ども!? 男児がほしくて、「男の子が生まれるまでは……」と考えていたら、いつしか7人姉妹になったのだろうか?
家の中へお邪魔すると、子どもたちのパワーがスゴいのだ。はっきり言って、うるさい。テレビ越しに超音波攻撃を受けているようなやかましさだ。ちなみに、この一軒家は祖父母が住んでいた住居だそう。持ち家でよかった。壁という壁に落書きされているし、そこら中の壁紙がビリビリに破かれている。賃貸だったら原状回復が大変だ。いやはや、女子でもここまでやるのか……。
このタイミングでパパが帰宅したようだ。娘たちは「キャー!」といっせいにパパを出迎えた。まるで、お祭り騒ぎである。ママと同い年、33歳の一家の主の職業は鉄筋工だ。子ども手当もあるはずだが、大勢の子の生活を支えるプレッシャーによく耐えていると思う。
いずれにせよ異常な賑やかさの中、1日ではとてもリポートできそうにない。なので、番組は一週間かけてこの家に密着することにした。7日間かけて7人姉妹に付き合うのだ。
結果、やはり毎日は戦争だった。まず、洗い物と洗濯の量が異常。壁はいたるところに穴が空いているし、破かれるから最初からカーテンは掛かっていない。子どもが大勢のため、しつけきれないのだろう。ちなみに月の食費は15万円で、毎朝ごはんは10合炊きだ。
見ていて思うところもあった。姉妹が小学生のうちはまだいい。でも、大きくなったらどうなる? 間違いなく、スマホ代は大変になる。今は高校の学費を無償化する制度があるが、大学には全員が全員行けないはずだ。
ある日の夕飯を見ると、丼ものだった。7人の娘さんたちが勢ぞろいし、楽しげにごはんを食べている。でも、見るとそれぞれ丼一品しかないのだ。夕飯に一品しかないのは侘しすぎる。せめて味噌汁くらいは付けてあげてほしい。でも、これでも食費に月15万円もかかっているのだ。
家の中は女子校ノリだった。密着スタッフは姉妹から「カメさん(カメラマンさんの略)」と呼ばれ、逆セクハラを受けるほどモテモテ状態に。スタッフのズボンを脱がし、「パンツ見せて!」と押し倒しにかかる女児たち。一見すると天真爛漫だ。でも、このはしゃぎ方には理由があるはず。大勢の中から自分に構ってもらうため、やたらちょっかいを出しにいく。そんなサバイバル術に見えたのだ。
子どもたちが就寝後、パパとママの表情を見ると見事に疲れ切っていた。7人姉妹を養うのだから、こうなるのは仕方ないだろう。
かつて、この家には危機があったそう。三女と四女の双子が生まれ、退院したママが1カ月検診を受けた直後、すぐに五女の妊娠が判明した。
ママ 「本当は、医者から『3年空けてくれ』って言われていたんです。(双子の出産が)帝王切開だったから、子宮が破裂しちゃうって」
パパ 「傷口が塞がってない状態で大きくなると裂けてきちゃう」
ママ 「裂けちゃったら、もう母子ともに間に合わない」
――でも、どうしてそこまでして産もうと思ったんですか?
ママ 「産まない理由がなかった。全然、怖いとか思わなかったですね。この子たちがいないほうが怖いみたいな(笑)」
パパ 「授かった命だからね」
いつものように、BGMで「Let It Be」が流れ始めた。レリビーで泣かせにかかる『家つい』。でも、どうしても美談と受け取ることはできなかった。少し間を置くだけでいいし、避妊するだけでもいい。なのに、なぜそんな無計画になってしまうのか? もしもママと五女が亡くなっていたら、上の子たちの面倒は誰が見る予定だったのだろう? 今はちゃんと両親で育てられているが、それは結果論である。
この取材から2年後、番組は家族を再取材した。「もしや?」と思ったが、さすがに8人目はできていなかったようだ。ただ、2年経って変わったことがある。明らかに、上の子が落ち着き始めているのだ。特に、長女・るうちゃんが大人びている。何しろ、もう12歳である。中学へ入学する年齢だ。なのに、伸びた彼女の前髪を文具ハサミでバッサリとカットするママ。入学式なのに、彼女は美容室へすら行かせてもらえないのか……。式当日の写真を見ると、ママはバッチリ着飾っていたのに。
長女の入学記念として、番組スタッフが「お祝いさせてもらってもイイですか?」と申し出た。何をしてほしいか質問すると、妹たちがいっせいに挙手! 「お出かけ」「何か買ってあげる!」「ケーキ食べる!」など、どんどん案が出てきた。そして、下の子から「うんこミュージアムに行きたい!」という案が出た途端、他の子もそのアイデアへ乗っかり始める。みんな、異口同音に「うんこミュージアム!」とシュプレヒコールをし始めたのだ。お台場に居を構えるうんこのテーマパーク「うんこミュージアム」へ、みんなで行きたいらしい。でも、るうちゃんはそれでいいのか?
「るうは別にどこでもいい(笑)」(るうちゃん)
見ていればわかる。彼女はあまり行きたくなかったはずだ。きっと、この子はいつも我慢している。大家族ものはこれが可哀想なのだ。長男と長女が、どうしても甘え下手になってしまう。姉妹のまとめ役としていつも頑張る、るうちゃんへのお祝いだ。本人にお祝いの内容を選ばせてあげたかった。
結局、番組は7人を「うんこミュージアム」に招待することに。到着すると、長女と次女の態度には明らかに照れがあった。12歳で「うんこミュージアム」は、さすがに恥ずかしい。しかも、今回のお祝いに両親は帯同していない。だから、誰かが迷子になるとるうちゃんが右往左往して探し回る羽目に……。誰かがはぐれてしまわないようみんなに声をかけたり、その姿はまるで引率の先生。るうちゃんのお祝いの日に、彼女が1番働いている。その姿はいじらしいが、さすがに可哀想だった。スタッフは彼女だけを連れ出し、1日ぐらい長女役から解放させてあげればよかったのに……。プレゼントどころか、るうちゃんにとってこの日は試練だった。
その間、両親は家で何をしていたかというと家でくつろいでいたようだ。
パパ 「ゆっくりしてました」
ママ 「すごい暇すぎて」
パパ 「静かすぎて、なんか変だった」
ママ 「暇で疲れちゃった(笑)」
暇だったのは、るうちゃんのおかげである。るうちゃんは、感謝をしたためた手紙を両親にプレゼントした。その文章を読み上げるるうちゃん。
「今日、子どもたちだけで出かけてみて、パパとママの大変だなと思うことがすごくわかりました」
「いつも、見守っててくれてありがとう。そして、ここまで育ててくれてありがとうございます。産んでくれてありがとう」
手紙を受け取ったパパとママは、るうちゃんに語りかけた。
パパ 「大変でしょう? それをママはやってんのよ?」
ママ 「こうやってね、思ってくれるのは嬉しいよね」
自分たちが大勢の子を産んだのだ。両親が苦労するのは当たり前だ。でも、長女に親の役割をさせないでほしい。彼女は「しっかりしている」のではなく、「しっかりせざるを得ない」だけ。ママの大変さを訴えるのではなく、ちゃんと長女を甘えさせてあげてほしかった。
長女にとって「祝い」どころか「呪い」にもなりかねない、今回のうんこミュージアム。るうちゃんは、いつまで妹たちの世話をしなければならないのか? 少なくとも、あと6年(高校卒業まで)はこの家にいなければならないはずだ。
3年後、5年後、この家がどうなったかを見てみたい。いや、今のうちに取材ができてよかったのかもしれない。
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