日本の格差拡大、認知症でも…東大研究Gが“大卒未満は増大”の予測
#認知症
東京大学の研究チームが4月27日、20年後の日本では人口高齢化にもかかわらず認知症患者の総数は減少。だがその一方で、認知症患者においては社会格差・学歴格差が広がり、またその影響を受ける人たちはフレイル(虚弱、詳しくは後述)を合併するケースも増加、結局介護費総額は増えるという研究結果を発表した。
https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/press.html#20220427
これまで厚生労働省などが発表してきた将来推計では40年には認知症患者数が1000万人近くまで増えると予想されていた。
これらの予想では、戦後世代の高齢者の健康状態や学歴が向上していること、高齢者の間で年齢・性・学歴による疾病罹患状況の個人差が拡大していることについては、考慮されていなかった。
そこで、東京大学の研究チームは、高齢社会総合研究機構、未来ビジョン研究センターおよび米スタンフォード大学との共同研究により、60歳以上の認知症とフレイル(虚弱)の有病率と医療介護費について43年までの将来推計を明らかにしたという。
フレイル(虚弱)とは、高齢者に見られる心身が疲れやすく弱った状態で、体重減少、倦怠感、活動量の低下、握力の低下、歩行速度の低下などによって診断され、要介護状態への進行、健康状態の悪化、生命予後の悪化などのリスクであることが知られている。
発表によると、研究チームは英スタンフォード大学の開発したミクロシミュレーションを改良し、年齢・性・学歴別に13の疾患・機能障害の有病状態を予測するモデルを開発した。
さらに、生産技術研究所の支援で超大容量計算機環境を利用し、4500万人以上の60歳高齢者の健康状態データをバーチャルで再現し、半年ごとの有病状態の変化確率を計算、2043 年までの変化を追跡した。
また、国内高齢者パネル調査の認知機能測定データとフレイル調査の結果から得られたデータをもとに、年齢・学歴・併存症別に認知症とフレイルの有病確率を併せて推計するシステムを開発した。
これらの分析を行った結果、16年では認知症患者数は510万人と推計され国の予測とほぼ同じだったが、43年ではこれまでの国の予測とは異なり、465 万人に減るという予測結果となった。
ただし、認知症患者数の減少は大卒以上の男性では著しく、大卒未満の男性や女性ではむしろ増加が予測された。
男性の場合、全体では65歳時の平均余命は16年の18.7歳から43年には19.9歳に延伸し、認知症のある平均余命は2.2年から1.4年に短縮する。ただし、学歴により平均余命に占める認知症の割合は、大卒以上は1%程度で変わりがないのに対し、高卒未満で22%から25%へ悪化すると推計された。
女性の場合には、全体では65歳時の平均余命が16年の23.7歳から43年の24.9歳に延伸し、認知症のある平均余命は4.7年から3.9年に短縮する。ただし、学歴により平均余命に占める認知症の割合は、大卒でも14%から15%に、高卒未満では23.8%から24.5%に悪化すると推計された。
このように、認知症患者の総数は減る一方、大卒以下の層や75歳以上女性では増加し認知症の社会格差が広がる。加えて、男女格差・学歴格差が広がること、格差の影響を受ける層ではフレイルを合併する割合が高く、濃密な介護ケアが必要になるため、介護費総額は増加することが示唆された。
研究グループではこの分析結果は、「日本社会の持続可能性を高める科学的根拠に基づく政策として認知症の治療・予防開発に加え、格差対策の重要性を示すなど新たな政策立案に貢献することが期待される」としている。
研究成果は4月26日に英国科学誌「the Lancet Pubic Health」のオンライン版に掲載された。
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