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『夜を走る』まさかの『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』ラインの傑作!

『夜を走る』まさかの『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』ラインの傑作!の画像1

 映画『夜を走る』が5月13日よりテアトル新宿と横須賀HUMAXシネマズで公開中、5月27日よりユーロスペースほか全国で順次公開される。

 初めに申し上げておくと、本作は予備知識を入れずに観るのがいちばん良い。観る前は「邦画でよくある地味な人間ドラマかな」と失礼な印象を持っていたが、本編は先の読めない展開の連続、これほどまでにインパクトのある内容とは予想だにしていなかった。「こんな映画だとは思いもしなかった」驚きも含めて、とてつもなく面白い、年間ベスト候補の傑作だったのだから。

 内容の完全なネタバレなしで言えることは、俳優がいずれもハマり役かつ持てる力を最大限に発揮しているということだろう。主演の足立智充と玉置玲央は人間味がありながらも底知れない恐ろしさを見せる、対照的な役柄をこれ以上ないほどに演じ切っている。なんとも「美味しい」役で登場する松重豊と宇野祥平もただただ最高だ。

「構想9年、オリジナル脚本で現代社会の相貌を描き切った怪物的傑作」という触れ込みは完全に正しい。(後述する理由で賛否両論も呼びそうではあるが)「いいから、とにかく観に行ってくれ」と言って終わりにしたいところだが、その面白さの理由を解説しないわけにはいかないので、3つの段階に分けて、内容に徐々に踏み込んでいくかたちで記していこう。いずれもネタバレには当たらないとは思うが、前述したように予備知識のない最良の状態で観たい方は、先に劇場へ足を運んでほしい。

1:『ヘレディタリー/継承』と『ミッドサマー』を連想させる理由

『夜を走る』まさかの『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』ラインの傑作!の画像2

 『夜を走る』のジャンルはホラーとは呼べないかも知れないが、予想外の事態に翻弄され続ける様、日常に不意に現れた「落とし穴」にハマりこんでいく過程、さらなる「深淵」に連れていかれるような恐ろしさは、物語そのものは全く異なるものの『ヘレディタリー/継承』(18)を彷彿とさせる。加えて、後半には同じくアリ・アスター監督の話題作『ミッドサマー』(19)を強く連想させるシチュエーションが展開していくのだ。

 試写で観た方からは絶賛に次ぐ絶賛が寄せられているが、おそらく賛否両論も呼ぶ内容でもある。ドス黒い笑い満ちたブラックコメディの要素が盛り込まれ、意図的に観客を「何この状況!?」と困惑させる不条理な演出や作劇もあり、気持ち悪さや不快さをあえて前面に押し出す場面もある。最後まで観ても「何が言いたいのかさっぱりわからない」という理由で、作品そのものに否定的なジャッジを下す方もいるのではないか。奇天烈とさえ言える物語であり、つかみどころのなさを覚える方もいるだろう。

 だが、ラストのセリフと映し出される映像を鑑みれば、込められたメッセージは実は明確であるとも言える。賛否両論を呼びそうな「わけのわからなさ」「気持ち悪さ」があるものの、一方で「いったいどうなるんだ?」と興味を引かせる展開も連続する、わかりやすいエンターテインメント性があることも断言しておきたい。それも『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』と共通する事項だ。

 なお、『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』とは違い、グロはほぼほぼ皆無ということも付け加えておく。ただし、直接的な残酷描写がなくても「想像をさせる」ことで良い意味でイヤな気分にもさせてくれるので、ある程度の覚悟を持って観たほうがいいだろう。

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