バイデン反ワク派に痛烈ジョークも…大統領が晩餐会でコメディアンにいじられる米国
#スタンダップコメディ #Saku Yanagawa
晩餐会にコメディアンが呼ばれる意味
そして拍手を受けたこの日の主役、トレバー・ノアはゆっくりと話し始める。
「今日この場にこうしていることができて幸せです。だってここはおそらくアメリカで最も“密”な場所だから!」
2500人の客席はカメラ越しにもわかるぐらいのぎゅうぎゅう詰めだ。
「マスコミの皆さんはこれまで散々『マスクをつけるべき』とか『室内での大人数の会合は避けるように』って言ってきたのに、無料のディナーがあるってなったら、急に“ジョー・ローガン”みたいになるんだね」
ジョー・ローガンとは、ポッドキャストでたいへんな人気を誇るスタンダップコメディアン。自身の番組にたびたび反ワクチン論者を招いたことから「コロナ否定派」の代名詞的存在になっている。挨拶がわりと言わんばかりに、マスコミ各社のこうしたダブルスタンダードをチクリとイジる。
そして、改めてトレバーは客席に向かって語りかけた。
「僕は今日ここに誰かを傷つけるために来たんじゃないんだ。ジョークを言って全員を紳士的にイジりに来たんだよ。今の時代こういう場所でジョークを言うことが非常に難しくなってるのはわかってる。この前のオスカー(クリス・ロックとウィル・スミスの一件)だって観ていたしね」
自身の意義を明確にした彼はここから凄まじいテンポで全方位的にジョークを繰り出した。
「Don’t Say Gay(ゲイと言ってはいけない)法」で話題のフロリダ州知事、ロン・デサンティス(共和党)に始まり、インフラ投資法案に最後まで反対したジョー・マンチン議員(民主党)、CNNを解雇されたクリス・クオモ、そしてトランプ前大統領。笑っていいのかややためらい気味なメディア関係者たちを尻目に、マシンガンのようにネタを繰り出す。そして一呼吸置くと、壇上のテーブルに座るファースト・レディのジル・バイデンに向かってこう話しかけた。
「ジルさん、あなたはファースト・レディになられた今なお、こうして教授として教壇に立たれています。それは素晴らしいことです。よっぽど教えるのがお好きなのでしょう。もしくは、ひょっとしてまだ学資ローンの返済が終わってないのですか? だとしたら、バーニー・サンダースに投票しておくべきでしたね」
かねてより学資ローンの債務免除を提言しているサンダース議員。今なお民主党支持者の中で根強く大統領待望論があるバイデンの「ライバル」でもあるだけに、やや手厳しいこのジョークにジル・バイデンも苦笑い。その横でバイデン本人はニヤリと笑ってみせた。そしてついにトレバーのジョークの矛先はバイデンにも向かう。
「大統領! あなたは自分がこうしてイジられるとわかっているのにこの、晩餐会に参加しました! それが何より素晴らしいんです!」と前置きすると、「今は陰謀論の黄金時代です! 右も左も関係なくデマがはびこっています。右派はトランプが2020年の選挙に勝ったというデマを信じているし、左派はあなたが2024年の選挙に勝つというデマを信じています」。これにはバイデン大統領も拍手しながら大爆笑で応えた。
そして、トレバーは真面目な顔で客席をじっと見つめ、恐らくはこの日もっとも伝えたかったであろう「メディアのあり方」を説いた。
「あなたたちジャーナリストは、それを好むと好まざるとに関わらず、ひとりひとりが『民主主義の砦』なんです。もし自身のその責任に少しでも疑念を感じたのなら、どうかウクライナを見て欲しい。この状況の中でもジャーナリストはまさに今、命がけで何が起こっているかを伝えようとしています。そして私たちが今いるここアメリカでは、あなたたちは真実を追い求め、そしてそれを伝える権利があるんです。たとえそれが権力者を不快にさせても、読者に嫌な思いをさせても、それができるんです。僕だってここでこうして今日、大統領をイジっても、つぶされることはないんです」
そしてバイデンの方をチラッと見やると
「あれっ、大統領、そうですよね?」
とトボけ、笑いも忘れない。
舞台を後にするトレバー・ノアに会場は、この日二度目のスタンディングオベーションを贈った。
意見の異なる人々が、同じ空の下で日々暮らすアメリカ。自らの意見を持ち、それを人に伝えること。そしてそれを笑いで紡ぐことの意義を、右も左も関係なくこの日の会場のメディア関係者は理解していた。晩餐会にはコメディアンがまだ必要だ。
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また、数年ぶりに夏フェスへの出演やそのほかライブも予定とか。続報は随時、こちらでも掲載いたします。
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