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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 新作『水俣曼荼羅』に込めた思い
「観た人にアクションを起こしてほしい」

戦う人々を描き続ける原一男が新作『水俣曼荼羅』に込めた思い

水俣が抱える難しさは、日本という国の難しさ

戦う人々を描き続ける原一男が新作『水俣曼荼羅』に込めた思いの画像7
石牟礼道子 ©︎疾走プロダクション

ーほかに映画の中で印象的なのは加害者に対する「許し」の話でした。石牟礼道子さんが、水俣の語り部のひとり、杉本栄子さんが「すべて許すことにした」と語ったと言う話をします。そこで監督が石牟礼さんに「恨みはどこへ行くんでしょうか」と聞くけど、そのあと「悶え神」の話になってしまう。石牟礼さんが「許し」についてなんとお答えになるか聞きたかったのですが。

 石牟礼さんは水俣病の運動が盛んな時に、患者さんの想いを代表する言葉として「恨み」という文字を考えたと話してくれました。それから30~40年経って、運動のエネルギーが沈んでいくじゃないですか。行政が本格的に水俣病を取り込む姿勢を見せない中で、戦う側はバラバラになって疲弊して、「もう幸せになりたい」という考えが出てくる。

 石牟礼さんは、患者さんの心を本当に敏感に受け止めて、ご自身の感性というフィルターを通して整理し、表現し、価値づけて文学として発表しています。石牟礼さんは杉本さんのことも受け止めて、新しい概念をいっぱい発表してる。だけど、杉本さんを嫌っている人もいるんです。杉本さんはいろんな感覚を受け止める感性のアンテナが鋭い人なんでしょうね。別の患者さんの苦しみを杉本さんが聞いて、その苦しみを自分のことのように伝えるという力を持っていたそうなんです。だから、「栄子さんが言ってるあの話は別の人間から取ったものだ」という人もいるらしい。

ーそれは難しい話ですね。苦しみやその中から生まれる言葉はその人だけのもので、誰かに奪われてはいけない。一方で、伝えることによって世の中を変える可能性もあって。

 石牟礼さんも、東京あたりだと文学者としての最高峰の評価を受けている。でも、水俣では反発している人もいる。ああいう神がかったようになることに関して「冗談じゃない」「何も解決してないじゃないか」と。その緊張関係はいまだに生きてるんですよね。石牟礼さんは亡くなる前、熊本の老人ホームにいました。そのことについて「水俣から追い出された」って言い方をする人もいたんですよ。そういう色んな人の気持ちが入り組んでややこしい世界を作っているというのが水俣病という問題なんですね。100%信頼されている人は誰一人いない。この水俣の難しさが、今の日本の難しさだなと思ったんです。

ーもし自分が同じ立場になった時に、はたして権力と戦い続ける事ができるだろうかというのを問い正されました。怒り続けるというのは、自分が踏みにじられているのを自覚し続けることだから……。そういう意味で、基準にしたいと思ったのは東京・ 水俣病を告発する会の鎌田さんです。「許すとか許さないという話は考えていない。これは傷害事件、殺人事件なんだと。現行では裁き切れない、割り切れない部分はあるけれど、それをどう裁いていくか」と。

 私も鎌田さんの考えに一番近いですけどね。とても「許す」という方には行かないですよ。あの世まで持っていけという思いが強いです。「悶え神」という考え方はいいなと思いますけど、「死んでも恨みはらさでか」というノリの方が好きですもん。

ー「悶え神」は人々の苦しみに対して、一緒に悶えて悲しみをともにしようとする人、「悶えてなりとも加勢する」人のことと話されてました。「悶え神」=「表現者」なんでしょうか。

「悶え神」はもともとはいい意味ではなく、何か起こったときも、「ただ悶えているしかできない役に立たない存在」という意味なんですよね。それが本来の水俣の言葉の中での意味みたいです。

ー石牟礼さんが使う時は「たとえ力のない人でも、寄り添うことはできる」という意味合いがありますよね。

 そうですね。あの考え方はいいですよね。でも、やっぱり、私なんかは貧乏人だから、しんどくても権力に対して抗い続ける生き方を続けたいと思いますけどね。

『水俣曼荼羅』

監督:原一男
エグゼクティブ・プロデューサー:浪越宏治
プロデューサー:小林佐智子 原一男 長岡野亜 島野千尋
編集・構成:秦 岳志  整音:小川 武
助成:文化庁文化芸術振興費補助金映画創造活動支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会 製作・配給:疾走プロダクション 配給協力:風狂映画舎
ウェブサイト:http://docudocu.jp/minamata
2021年11月27日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開中
©︎疾走プロダクション

池田智(ライター)

ライター。マンガやストリップなどを軸に、文化と社会について考えている。

【ライター池田智のサイト】

いけだとも

最終更新:2022/05/11 20:00
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